第57章 託す想い
「そ、そんな……エルドさんまで……」
「マリア……」
「…ど、どうして…?どうしてみんな死んじゃうの?父さんも、母さんも、お姉ちゃんも死んじゃった。だから、私…嬉しかったのに。エルドさんが、俺を頼ってくれって言ってくれたの…嬉しかったのに……」
膝の上でかたく握られた拳の上にポタリポタリと大粒の涙が次々に落ちる。
「どうしてエルドさんまで…死んじゃったの…?」
「マリア…ごめん…ごめんね…こんな知らせばかり……」
下を向いて必死に泣くのを堪えているマリアを見ていられなくなったクレアはその拳に自身の手を重ねて握ってやるが、涙が止まることはなく、今度はクレアの手の甲をその涙で濡らしていくだけだった。
悲しみの想いから生まれたその雫は、心の中を負の感情でいっぱいにし、只々ひたすらに冷たい。
「うっ……うぅ……お姉ちゃん…エルドさん……」
必死に声を押し殺して我慢をしていたマリアだったが、愛していた彼らの名を呼ぶと、ポタリポタリと落ちていた涙は堰を切った様に洪水のごとくマリアの頬を濡らしていった。
「うぁぁぁ……あぁぁ…クレアお姉ちゃん……私、私…どうしたらいいの…?!」
悲しみの感情を制御できなくなってしまったマリアは、クレアに抱きつき涙声で叫ぶ。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……エルドさん……死んじゃ嫌だよぉ……!!」
「マリア……ごめんね……ごめん…!!」
クレアにはこんなマリアに、何もしてやれず、悔しく唇を噛みながら抱きしめてやる事しかできなかった。
マリアの言葉にならない叫び声で咽び泣く姿は、クレアの心にも大きな痛みを与えた。
「うっ……うぅ……」
いったいどれだけこうしていただろうか…
気づけばクレアの胸元はマリアの涙でビッショリと濡れてしまっている。
「マリア…大丈夫……?」
そして顔を少し上げたマリアの顔を覗き込むと、その目元は真っ赤に腫れてしまっていた。