第57章 託す想い
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孤児院に着くと、クレアは呼び鈴を鳴らした。
「……………」
今日もよく晴れていい天気だ。
中庭の方から元気よく遊ぶ子供の声が聞こえてくる。
あの中に、マリアもいるのだろうか。
そんな事を考えていたら扉が開いた。
「はい、どちら様ですか?あら…あなたは…」
「こ、こんにちは、寮母様。調査兵団所属のクレア・トートです。ご連絡も入れずにすみません!今日は、マリアに会えますか?」
ずっと機会をうかがってはいたが、来れると決まったのが急だったため、連絡を入れる事ができなかった。親族でもない自分が急に訪問になど、迷惑ではなかっただろうか。
「えぇ、もちろん大丈夫よ。マリアも喜ぶわ。今呼んでくるから中に入って待っていて。」
「ありがとうございます…」
笑顔で歓迎されてしまったクレアは、思わず胸がズキンと痛んだ。
今日も、前回と同様楽しい話など1つもしてやれないのだ。
クレアはなんとか笑顔で礼を言うと、中庭まで案内された。
中庭のベンチに腰掛けると数人の子供達がボールで遊んでいたが、その中にマリアはいなかった。
「…………」
マリアは、エルドの死を悲しむだろう。
自分が持ってきた遺品をどう想うだろうか。
託される想いをどう感じるだろうか。
クレアの頭は不安でいっぱいだった。
「クレアお姉ちゃん!!」
モヤモヤと想いを巡らせていると、背後から声をかけられた。この声はマリアだ。
「マリア!久しぶり…元気にしてた?」
「うん!!お姉ちゃんは?ケガとか…あっ…大丈夫??」
クレアは振り返って立ち上がると、マリアは昨年の秋に会いに来た時より随分背が伸びていた。
もう見上げないと目も合わせられない。
そして、包帯やガーゼはとれたが、まだ若干跡の残っている火傷を見つけると、明るかった笑顔が一変して心配そうな表情に変わってしまった。