第57章 託す想い
クレアは膝下丈で紺色のシンプルなワンピースに同色のボンネット帽を被っていた。
しかし、シンプルなデザインだが、丸襟の縁には控えめなレースが。
スカートはたっぷりと生地を使ったフレアデザインになっていて、裾まわりがふわりと広がり実に上品だ。
普段の訓練で見せている勝ち気でサディスティックに飛びまわる姿でもなく、兵舎で見かけるヨレヨレの部屋着を着たミスマッチな姿でもないクレア。
パッと見、シーナに屋敷をかまえる令嬢のようだ。
「なんだかクレアさん、貴族の令嬢みたいです。」
「え?!」
アルミンの言葉に皆うんうんと頷くが、自分の容姿にはすこぶる鈍感なクレアは裏返った変な声を上げてしまう。
「だって、いつもクレアさんが着てる服って……あっ、いえ、何でもないです…」
「……ねぇ…もしかして…エレンも私が兵舎で着てる服は雑巾だって言いたいの!?」
口が滑ったエレンの言葉でなんとなく察したクレア。
「あっ!!い、いえ…そんなつもりは!!」
クレアの突っ込みにブンブンと両手と首を振りながら否定するが、否定をすればする程肯定してる様に見えてしまい、クレアは大きなため息をついて答えた。
「はぁ……今日はでかけたい所があるから、ハンジさんから特別に休暇をもらったの。だから今日はお休み。それに私はシガンシナ区出身のただの街娘。私が貴族の令嬢みたいだなんて…本物の貴族のヒストリアに失礼だわ。」
そう、クレアは見た目は規格外の美しさを持っているが、生まれはシガンシナ区の街医者の一人娘だ。
目の前に正真正銘の貴族の末裔、ヒストリアがいるのだ。
クレアはサラリと否定をした。
「そ、そんな事ありません…私、貴族レイス家の末裔ですが、不貞の末に生まれた子供なので……幼い頃は何もわからず鼻水垂らしながら牛や馬の面倒をみていましたし、近所の子からは石を投げられて嫌われてましたから…正直クレアさんの方が貴族の御令嬢に見えます。」