第57章 託す想い
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仕事も中途半端なまま執務室を追い出されてしまったクレアは、仕方なく朝食を済ませるとハンジの部屋へ行き休暇の申請を申し出た。
エルヴィンの目が覚めればまた忙しくなる。
それに、当面の資金も確保できたため、ハンジからは2つ返事で休暇の許可をもらう事ができた様だ。
休暇になったため、部屋で私服に着替え身支度を整えると、クレアは引き出しにしまっていたネックレスを取り出しその手に取る。
「…………」
手の中でコロンと転がったピンクの石は、いつも眩しかったフレイアの笑顔の様に、そしてエルドの優しさの様に、温かく光り輝いている。
ずっと、ずっとずっと自分が持っていたかった。
失ってしまった親友の形見として持っていたかった。
しかし、兵士である自分が持っていては駄目なのだ。
この輝く石の中で眠る2人を、もう悲しませる事はしたくない。
もう何度も何度も考えて出した答えだ。
これはマリアが持っているのが相応しいのだと。
クレアは何度目かの決心をすると、ネックレスを小さな布袋に入れギュッと握りしめ、急いで厩舎へと向かった。
「デイジーおはよう。今日はハンジさんからお休みを貰ったの。ちょっとでかけたい所があるから付き合って。」
『………ブルンッ!!』
いつもより元気がない様に見えたデイジーはしげしげとクレアの表情を見つめると、ブルンと鼻を鳴らして頬をつついた。
そして前掻きをしてみせる。
「キャッ!!……ご、ごめんね……実は、マリアがいる孤児院まで、遺品を届けに行きたいの。私は大丈夫。どこも具合悪くないから…お願い、乗せてって?」
『…………』
両手をあわせてお願いするクレア。
孤児院まで…
クレアの事情を察したデイジーは、前掻きをやめるとおとなしく無口を付けさせた。
「あれ?クレアさん?!私服ですか?」
「……!?」
デイジーを蹄洗場まで連れて行こうと、馬房を出た所で、クレアは声をかけられた。
振り返ると、そこにいたのは104期の新兵達だった。