第9章 駈けだす想い
クレアはしばし、ポカンとした顔で立ちすくんでしまったが。
「クレア!頼む!なかなか話す機会がなくて、頼めるのは同室のクレアしかいないんだ!頼むよ!」
手を合わせて頭まで下げられてしまった。
さすがにこんなところを他の兵士に見られるわけにはいかない。
仕方がないか…
「エ、エルドさん!!そんな、頭を下げるなんて、やめてください……あの…渡すだけで宜しいのであれば…」
「いいのか?!ありがとう!」
クレアは渋々と手紙を受け取り、兵舎に戻った。
どのタイミングでフレイアに渡せばよいものかと悩みながら自室のドアをあけると、幸か不幸か、フレイアも訓練を終え、戻ってきていた所だった。
「あ、クレアお疲れー!今日は暑かったね!汗かいちゃったし、先にお風呂入ってから食堂いこうと思ってたんだけど、クレアも一緒にどう?」
「う、うん!いいよ!私もそうする!」
クレアは急いで風呂の支度を始めた。
想い人がいながら、他の男の人から好意を寄せられるのはいったいどんな気持ちになるのだろうか…
迷惑に感じてしまうのだろうか、はたまた嬉しく感じるのか…
まさかとは思うが、そちらになびいてしまうこともあるのであろうか…
クレアはこの手紙を渡すことによって、フレイアが壁外調査を前に悩み事をつくってしまうのではないか、とても心配した。
だが、先輩兵士エルドの頼みも断ることができず、クレアは風呂の間も、夕飯の間も終始うわの空になってしまった。
「ちょっと!クレア!さっきから変だよ?どうしたの?」
さすがのフレイアも不思議に思い、部屋に戻ってくるなりクレアを問い詰めた。
クレアは返答に困りまごついたが、そもそもエルドからの頼みごとは引き受けてしまったのだ。
どちらにしても渡さなくてはならない。
「あ、あのね…フレイア、落ち着いて聞いて欲しいんだけど……」
「え?なに?」
「あのね、リヴァイ兵長の班のエルドさんってわかる…よね……?これを渡して欲しいって言われたんだけど…」
クレアはおずおずと小さく折りたたまれた手紙を差し出す。
「…………っ!!」
するとフレイアの顔は驚き、顔はみるみると赤くなっていった。