第9章 駈けだす想い
リヴァイ班の精鋭は、他の班員とはレベルがまったく違った。
ベテラン兵士のエルドやグンタはもちろんだか、いつもほんわかと優しいペトラや、いじわるばかり言ってくるオルオもスピードや討伐の的確さが、軍を抜いていた。
さすがの奇行種クレアもリヴァイ班相手では、なかなか優勢な動きを出すことができず、食いついて行くのに精一杯だった。
だが、なんといっても桁違いの動きを披露してくれるのは、人類最強リヴァイ兵士長だ。
無駄な動きは一切なく、見えない程のスピードで的確に巨人の模型のうなじを削いでいく。
とても同じ立体機動装置を装着しているようには見えない。
クレアは少しでもリヴァイ班の技術を身に着けようと、必死に食らいついて訓練に挑んだ。
夕刻になり、訓練が終了すると、集中力を出し切ったクレアはヘトヘトだった。
だが、嫌な疲れではなく充実感に溢れていた。
季節も夏に移り変わってきたため、だいぶ汗をかいたクレアは、水道で顔を洗っていると、ある人物に声をかけられた。
「クレア、今いいかい?」
タオルで顔を拭いて見上げると、そこにいたのはエルドであった。
「エルドさん?お、お疲れ様です。どうされましたか?」
「あぁ…お疲れのところごめん!あのさ、ちょっと頼みたいことがあって…」
「?私にですか?」
「うん、これをさ、君の同室のフレイアに渡してもらいたいんだ…」
と言って、差し出されたのは、小さく折り畳まれた紙だった。
心なしかエルドは照れくさそうにしている。
これは、照れくさいことが書かれている紙なのだろうか?
「………!!」
クレアは少し考えたが、鈍感なクレアでさえも、その渡された紙がなんなのか容易に想像ができた。
きっとフレイアに好意をもっている内容だろう。
これはまずい…
クレアはつい最近、フレイアに想い人がいることを打ち明けられたばかりであったのだ。
そんなことを知っているのに、こんなものを渡す頼まれ事は引き受けたくはない。
だからといって断る理由を言えるわけはないし、仮にもエルドは何年も年上の先輩兵士だ。
様々な理由で断ることはできない。
さて、どうするか…