第9章 駈けだす想い
リヴァイは机で、クレアは応接セットのソファとテーブルで仕事をしている。
リヴァイからはクレアの背中しか見えない。
「おい奇行種、お前は誰から紅茶の淹れ方を習った……」
まさかの質問に、クレアは仕事の手を止め、思わずリヴァイの方に振り返った。
「あ……申し訳ありません…お口に合わなかったでしょうか…?」
「そうではない…その逆だ。」
その逆?ということは、まずくないということで、とりあえず今怒られてる訳ではなさそうだ。
「紅茶の淹れ方は…私の母から仕込まれました。母は、父と結婚する前は、貴族のお屋敷で給仕の仕事をしておりましたので…」
「そういうことか…悪くない。明日も頼む。」
「は、はい!」
茶葉の良し悪しがわかるのも、紅茶の淹れ方がうまいのも、こいつの母親の躾の賜物ということか…
思えば、こいつの話し方も、他の女兵士と比べると、どこか品のある言葉づかいをしていて、雰囲気や所作もどこか上品な感じがする。
母親が貴族の屋敷で働いていたというのなら妙に納得がいく。悪くない……
リヴァイはクレアの淹れた紅茶に満足しているようだった。
調査兵団の女兵士は全体の2割程しかいない。
その2割の中でも、大体が勝ち気で男勝りな性格の者で、クレアのようなタイプの女兵士は今の調査兵団にはいなかった。
唯一、ペトラが小柄な点ではクレアと共通していたが、独特な上品さはクレアとにかよる者はいなかった。
「おい奇行種、ちゃんと馬には乗れるようになったか?」
「はい!兵長のおかげで、もう問題ありません!拍車もムチも使わないで乗れるようになりました。」
クレアは満面の笑みで答えた。
以前に同じ質問をした時の思い詰めた表情はどこにもない。
「そうか…それはよかったな。」
「ありがとうございます。お陰様で、壁外調査に間に合いました。」
「…確か今日はお前の班と合同訓練だったな。」
「はい、ハンジさんからはそううかがっています。」
「あのクソメガネは壁外調査が近づくと更に暴走するからな。うちの班員を巻き添えにするなと伝えておけ。仕事はここまででいい。助かった。」
クレアは失礼しますとお辞儀をすると、執務室をでていった。