第9章 駈けだす想い
──壁外調査まであと1週間──
1週間前にもなると更に兵団内の空気は、ピリリと張り詰めたように変わった。
もちろんクレアも初めての壁外調査に緊張が無いわけではなかったが、なるべくいつも通りに過ごそうとしていた。
今朝もいつもの通り朝早くにリヴァイの部屋に行き、掃除の準備を始める。
すると、まだ来るはずのない部屋の主が執務室の扉をあけた。
──ガチャッ──
「兵長?こんなに早く、どうされたんですか?」
リヴァイはため息をつきながら大量の書類を机にドサッと置いた。
「あぁ、壁外調査の前後は事務仕事が増える。しばらくはこんな感じた。早くに来たところ悪いがしばらく掃除にはこなくていい……壁外調査までは早起きせずに寝ていろ。」
リヴァイなりの気遣いだったのであろうが、クレアは少し寂しく感じた。
リヴァイの仕事が増え、早朝から執務をすることを知っているのに、ゆっくり眠れそうにはなかった。
「あ…あの兵長。ご迷惑でなければ明日もこの時間にきてもよろしいでしょうか…?お仕事の邪魔になりそうなので掃除はしません。そのかわり、執務を手伝わせて頂けませんか?」
「………?!」
リヴァイの眉間にシワが寄る。
「……す、すみません…なんとなく、いつもと同じ事をしていないと落ち着かなくて……やはりご迷惑ですよね……?」
リヴァイは思ってもみなかった返答に少し戸惑ったが、クレア自らが側で仕事がしたいと言っているのだ。
断る理由などなかった。
「好きにしろ……ただ無理だけはするなよ。」
「ありがとうございます。私、紅茶淹れますね。」
クレアはホッとしたように微笑んだ。
簡易キッチンに置いてあるヤカンで湯を沸かすとクレアは手際よく紅茶を淹れ始めた。
リヴァイは書類仕事をこなしながらチラチラと視線をクレアにむけていたが、なかなか紅茶がだされないように感じた。
何か探しているのかと声をかけようとしたところで、トレーにポットとカップをのせ、クレアがリヴァイの机にやってくる。
「お待たせしました兵長。紅茶好きの兵長に淹れるのは緊張しましたが、どうぞ…」
はにかみながら出された紅茶はいつもより、深い香りがした様な気がした。