第3章 衝撃的な出会い
気づけば102期訓練兵に編入して2年と少しが経過し、訓練兵生活も残すところあと半年になっていた。
この頃になると会話の話題は卒業後の所属兵団だ。
憲兵団に入れば内地での生活が約束されるが、入れるのは成績上位10名まで。
クレアは父の仕事の付き添いで内地に行ったことがあったが内地の憲兵に良い印象はなかったし、地元の駐屯兵は昼間から酒を飲んでいた。
どちらも魅力はなかった、だからといって調査兵団は死亡率が高い。いや、死亡率の前に調査兵団は変人の巣窟と聞いた。一般人ともまともに付き合えないクレアがやっていける自信はこれっぽちもなかった。
では何のために訓練してきたのかと言われてしまえば返す言葉もない。
クレアはストイックに自分を鍛え上げることにうちこめるこの「訓練兵」という環境と立場が非常に居心地がよかった。
できれば何年も訓練兵をやっていたいとバカげたことを願ってしまうほどだった。
もちろん兵士としての適性がないと判断された場合は退団となる。
だが、まれに卒業条件を満たす成績であっても、他に才覚があり、市街地での就職先が見つかり納税者となれる場合は特例として退団が認められる。
クレアには父の診療の手伝いで身についた技術があった。
縫合、応急措置、注射や点滴、薬品管理等の仕事はしっかりと身についている。看護師としてならばすぐに
働けるだろう。
来年の春にはこの充実した生活ともお別れなのかと思うと急に寂しさを感じた。
シガンシナ区の襲撃直後は、自身で就職先を探す気力がなかったクレアだが、ここまでくるとそうは言っていられない。
今のうちに街の診療所で求人募集の張り紙が出ていないか調べなくてはいけないかと、クレアはぼんやり考えていた。