第54章 裏切り者の戦士
「これまでの彼女の判断がとても罪深いのも事実です。…人類にとって最も重要な情報をずっと黙っていました。おそらく…それまではジブンノ身を案じていたのでしょうが…しかし彼女は変わりました。ユミルは我々人類の味方です!ユミルをよく知る私に言わせれば彼女は見た目よりずっと単純なんです!」
「そうか……」
クリスタの言っている事に嘘が無いのは、十分に理解できたハンジは静かに頷く。
「…もちろん、彼女とは友好な関係を築きたいよ。これまでがどうであれ、彼女の持つ情報は我々人類の宝だ…仲良くしたい。ただね…彼女自身は単純でも、この世界の状況は複雑すぎるみたいなんだよね……」
ユミル自身は単純かもしれないが、壁の中の巨人、その秘密を知っていて黙ったいたウォール教、そのウォール教に壁への口出しを許した王政。
全ての謎を明らかにするのは、一筋縄ではいかない。
ハンジはユミルの容態を見ているクレアの顔と、クリスタの顔を交互に見やりながら答えた。
「クリスタ…君の本名はヒストリア・レイスって言うんだって?」
「……はい、そうです。」
「レイスってあの貴族家の?」
「……はい」
「……そう」
クレアとヒストリアの容姿はよく似ていると思っていたハンジ。
しかも真っ直ぐで熱く自身の感情をぶつけてくるところまでそっくりだ。
自分の可愛がっている部下とよく似たヒストリア。
「…これからもよろしくね、ヒストリア…」
「…はい……」
その少女が背負っているものの重さに、上手く言葉が出てこなかったハンジは、“よろしく”と肩を叩く事しかできなかった。
「ユミルはどう?」
「あっ、ハンジさん!…位前昏睡したままです。出血が止まって傷口から蒸気のようなものが出ていますが…呼吸はあります。」
「とりあえずトロスト区まで運んでまともな医療を受けてもらわないとね。」
そう言うとクルリとハンジは反転する。