第54章 裏切り者の戦士
リーネにへニングも死んだ。
ナナバもゲルガーも死んだ。
そして目の前で巨人の群れと戦ってくれているユミルも圧倒的な数の前では不利なのか、力尽きようとしている。
立体機動装置はおろか武器になりそうな物もない。
もうここまでか。
「待ってよ!待ってよユミル!!まだ…私話してないことがあるのに……」
しかし、目の前で食われていくユミルにクリスタが危険も顧みず近づいていく。
「おい!クリスタ!ここにいろ!」
コニーが叫ぶが戻ってくる気配はない。
「そんな…待ってよ!!私の本当の名前…教えてないでしょ!!」
ーガシャンッ!!ー
「あ…あぁ………」
だが、瓦礫をのけて現れたのは、心から大切に想う友人の姿ではなかった。
目の前に、10m級はありそうな巨人が不気味な顔でクリスタを見据えると、ニタリと口角を上げて腕を伸ばす。
「ま、待ってよ…待ってよ…まだ…私は…」
対抗する手段を何1つ持っていないクリスタも、その他の104期も、その絶望的な光景に身体は強張り動く事ができない。
クリスタはこれまでか……
「う……うぅ……」
クリスタ自身も諦め目を閉じようとしたその時だった。
ーザシュッ!!!ー
小さな黒い影が素早く横切るのと同時に目の前の巨人が血飛沫を上げて倒れた。
「え……?!」
ーダンッ!!!ー ーダンッ!!!ー
「クリスタ?!大丈夫?怪我はない?!」
調査兵団のマントをはためかせてクリスタのすぐ横に着地したのは、“ハンジ班の奇行種”クレア。
そして、104期の間では化物級と呼ばれていたミカサだ。
「クレアさん…ミカサ…どうして……」
「クリスタ…皆、下がって!!後は私達に任せて!!」
ここに最初何人の兵士がいたのかは不明だが、今の時点で早急に処置が必要な人間はいなそうだ。
ライナーが腕を負傷している様だが、クレアは緊急を要さないだろうと判断すると、ミカサに合図を送り巨人の群れの中に飛び込んで行った。