第8章 迷える想い
「…立体機動の訓練で、親身になって色々教えてくれたのがきっかけだったと思うの…でも気づいたらいつもその人のこと目で追っていて…なかなか話す機会もないんだけど、目の前にするとうまくしゃべれなかったり…あとは……」
「あとは…?」
「いつもその人のこと考えちゃってドキドキしてるの…壁外調査の日も決まったのにダメだよね。」
フレイアは少し悲しそうに笑った。
その悲しい笑顔には……もう死んでしまうかもしれないのに………という意味が含まれているように聞こえて、クレアはたまらなく胸が苦しくなった。
「フレイア……恋をしたことのない私が言っても全然説得力ないけど……壁外調査、絶対に生きて帰ってこようよ!私、フレイアの恋、応援したいよ!」
「クレア……私、巨人を討伐して、両親の仇をとりたかったの。たった1人残された妹も守りたかった……その為に調査兵団入ったのに……恋をしてるかもしれないって思ったら、とたんに死ぬのが怖くなっちゃって……」
フレイアはポロポロと大粒の涙をこぼして泣き出してしまった。
「死ぬのが怖くない人なんてきっといないよ……それに、調査兵が恋しちゃいけないなんて、誰が決めたの?!そんなのは自由だよ!だから今はとにかく訓練に打ち込んで、壁外調査では絶対に一緒に生きて帰ってこよう!生きて帰ってこれたら……勇気をだしてフレイアの気持ちを伝えてみよう!」
告白は壁外調査の前ではダメだ。クレアは直感でそう思った。
どうしても生きて帰ってこなければならない理由がなければ、本当に生きて帰ってこれないと思ったからだ。
「クレア……ありがとう。弱気になっちゃダメだよね……壁外調査、なんとしても生きて帰ってこなくちゃね!…ねぇ、クレアは本当に好きな人いないの?」
「え?いないよ…。」
「本当に?気になる人も、いないの?」
「え?気になる人………?」
好きな人と聞かれれば自然といないと口にできたが、気になる人と聞かれると……何故だかクレアはすぐに否定の言葉はでてこなかった。
そして、脳裏にボンヤリと浮かんだのは、自由の翼を背にはためかせた、潔癖で、不機嫌そうな人類最強の後姿………
「………!」