第53章 謎と疑惑と真実
「ふざけるな…だと?!これは重罪だ。人類の生存権に関わる重大な罪だ。お前ら教団が壁の強化や地下道建設を散々拒んだ理由はこれか…?」
調査兵団も馬鹿では無い。
壁外に行くだけではなく、人類がより安心に、安全に過ごせるような提案を数多くしてきたが、それらは全てこの教団によって阻止されてきた。
それはこういう事だったのか…
「壁に口出しする権限をお前らに与えたのは王政だったな…つまり、この秘密を知っているのがお前だけなんて事はありえない…何人いるかは知らないが…」
この秘密を知っているのがニックやウォール教だけではなく、王政も深く関わっているのだとしたら、この壁内の中心人物が、全人類を欺いていた事になる。そうなればいったい人類は何を信じればいいのだ。
「お前らは、我々調査兵団が何のために血を流していたか知ってたか?…巨人に奪われた自由を取り戻すためだ…そのためなら…命だって惜しくなかった。それがたとえ僅かな前進だったとしても…人類がいつかこの恐怖から解放される日が来るならと、命を捧げ続けてきた…」
ハンジの頭には志半ばで散っていった仲間の顔が次々に思い浮かび、ニックを締め上げる拳にも力が入ってしまう。
「しかし…こんな重大な情報は今まで得られなかった…それでもまだ…とぼけられるのか?どれだけの仲間が巨人に食い捨てられていたか…知りませんでしたと?事実お前らは黙っていた…お前らは…黙っていられたんだ……」
「ハンジさん……」
寄るなと一喝され、その場から動けなくなってしまったクレアだが、ハンジが怒り、訴える言葉がグサグサと胸に刺さる。
ハンジより年下のクレアでも、数えきれない程の大切な仲間を失ってきた。
その中にはかけがえのない大切な大切な親友もいる。
それでも自身を叱咤し、周りの人間に支えられながら前を向いて戦ってきたのだ。
だが、そんな調査兵団の活動を知っていながら、ウォール教と王政は壁に関する重大な情報を隠していた。
クレアだけではなく、その場にいた全員がハンジと同じ気持ちであっただろう。