第53章 謎と疑惑と真実
ようやくアニを追いつめたと思ったら…この水晶体で身を覆われてしまった。
少なくとも鉄以上の硬度…
生きているかも分からない。
もし…
このまま、アニから何の情報も引き出せなかったら、何が残る…
多くの死者を出しその人生を失い…
謎ばかりを残して…
それで何が……
「あぁん!もう!!馬は?!馬はまだなの?!」
冷静さを保とうと思えば思うほど苛立ちが増してくる。
先程クレアを叱責したばかりだというのに、自分だってなんてザマだ…
ハンジの奥歯がギリリと音を立てた。
しかし今は一刻も早く地下深くまでアニを連れて行かないと危険なのだ。
「…クソッ…!!」
焦りが嫌な汗となってジトリとハンジの額を流れる。
不快感しか感じない嫌な汗をジャケットの袖で拭うと、壁からパラパラと破片が落ちてきた。
アニがよじ登る時に欠けた物だ。
「さっきから破片が危ないな…ん?ミカサ?なんでまだあんな所に……」
ミカサが壁の上部にぶら下がったまままだ下りてこようとしない。
いったいどうしたのだろうか。
「おーい!!!ミカサー?!どうし……っ!!?」
大声でミカサを呼んだハンジだったが、大量に上がっている水蒸気が、温かな春風に揺らめき散ると、剥がれ落ちた壁の中からとんでもないものが姿を表した。
ヒョォォォォォォ
心地良い風とは真逆に不気味な程大きな人の顔の様なモノ。
「なに…あれ……」
少し虚ろ気に半分ほど開いた瞼が、光を感じ取ったのか少しずつ開眼し、その瞳がギョロリと動く。
「い、生きている…??」
「オイ!!」
「あれは……」
「巨人…!?なんで?壁の中に…?」
「動いているのか…?」
周りの兵士達も気づいた様で、ざわめきだす。
「ハ、ハンジ分隊長!指示を!?」
モブリットが慌てた声でハンジに向かって叫ぶが、ハンジの耳には信頼してる副官の声すらも遠くに聞こえるような気がした。