第8章 迷える想い
「(ねぇ、もしかしたら眠ってる間に……何かされてたんじゃない?)」
「……………!」
耳打ちされた右側の首筋がゾワゾワっとするのを感じ、クレアは慌てて手を当てた。
「な、何かってなんですか?!」
「えー、リヴァイに直接聞いてみなー。」
ハンジはニヤニヤと楽しそうだ。
「分隊長、クレアで遊ぶのはそのへんまでにして下さい!私達も早く馬の手入れをしないと訓練開始に間に合いませんよ。」
モブリットがズルズルとハンジを連れて行ってしまった。
いったい兵長は自分に何をしてくれたのだろうか。
気にはなったが、間もなく訓練開始の時刻だ。
クレアはバタバタと準備を急いだ。
「はぁ……今日はなんだか疲れたなぁ……」
朝目覚めたらリヴァイのベッドで、わけもわからぬままハンジにはからかわれ、エルヴィンにはつっこまれた質問をされた挙げ句に不意打ちの褒め言葉をかけられた。
なんだか朝からリヴァイづくしであった。
今日の訓練ではリヴァイの事を考えないようにするのに必死で、逆に集中力が上がり、いつも以上の良い訓練をしてしまったように感じる。
今の時刻は夜の10時すぎ。
クレアはフレイアとの約束があったため、ハンジの執務室から女子棟にむかって急いでいた。
すると、自分のよく知る部屋の扉が、クレアを待ち伏せしていたかのように開いた。
──ガチャ──
「リ、リヴァイ兵長………」
「……?なんだ、お前か…今日は居眠りしないでエロ薬は作れたのか?」
リヴァイの様子はいたっていつも通りだ。
「…居眠りはしてません!それに、エロ薬ではなく、ハンジさん特製激アツ媚薬です!何度も言わせないで下さい!」
「………どっちでも同じだろ…」
クレアは昨日のことを聞こうかと思ったが、なんと切りだしたらよいのかわからず、リヴァイを見つめてしまう。
「…………?なんだよ?」
「あ、あの……その……」
聞くにしたって、何をどう聞くのだ…
「兵長、昨日私に何かしましたか?」
とでも聞けと言うのか?
…どう考えたって無理であろう…
「い、いえ、なんでもありません!失礼します!」
クレアは敬礼をすると自室まで全速力で走っていった。