第8章 迷える想い
「フフフ、団長は召し上がらないんですか?私でよろしいのであれば、喜んでまたうかがいます…」
クレアはカップを片付けるとニコリと微笑んだ。
「ありがとう。私はあまり食べないんだ。でも君がまたきてくれるなら、王都に行くときの楽しみができて嬉しいよ。」
「本当ですか?ではお言葉に甘えて……」
「それと、クレアは調査兵団にきてから本当に変わったね。そうやって笑ってるほうが、私は似合うと思うよ。………壁外調査も近い。今日の訓練も怪我のないよう頑張ってくれ。」
「は、はい!失礼しました!」
突然の褒め言葉に、クレアは顔を真っ赤にして敬礼すると、エルヴィンの団長室を後にした。
エルヴィンは顔には出さなかったが、クレアが自分に微笑んでくれたことに大人気なく喜んでいた。
王都でせっせと買い集めた焼き菓子は、やはり間違いなかった。
初対面の時、透きとおるビスクドールのようなクレアにエルヴィンは興味をもった。さらには、自分のものにしてみたいと、団長らしからぬ感情が少なからずあったことも事実だ。
しかし、エルヴィンはリヴァイのことが何よりも気がかりだった。
今までも副官を置くように何度か進言したがいつも「必要ねぇ」の一言だった。
またハンジも付き合いの長い友人心からだろう。何度か兵士ではない女性を紹介しようとしたが見事玉砕だったと言っていた。
──必要ない、面倒だ──
そう言ってリヴァイは頑なに1人でいることに固執しているようにも感じた。
もちろんそれらもリヴァイの本音だろうが、エルヴィンには別の理由にも心当たりがあった。
「まさか、イザベルとファーランが関係しているのだろうか…」
イザベルとファーランとは、リヴァイが地下街でゴロツキをしていたときからの仲間だ。
家族同然の様にいつも一緒だったと聞いていた。
だが、壁外調査で2人は巨人によって命を落としてしまう。
まさかのリヴァイが、2人の側を一旦離れるという選択をした直後に……
──大切なものを2度と失わぬように──
そういう思いでリヴァイが人を側に置けなくなってしまっているならば、なんとかしてやりたい。
エルヴィンは大きくため息をついた。