第52章 雨
もう、どのくらいの時間がたっただろうか。
外は変わらずザァザァと煩い雨音を立てている。
それとは真逆に静まり返っている執務室。
クレアの濡れた身体からポタポタと滴る音だけが2人の鼓膜を規則的に刺激した。
「………………」
きつくクレアを抱きしめ、立場も時間も忘れて自身の中から溢れる感情に身を任せたリヴァイ。
どのくらいの時間こうしていたかは不明だが、リヴァイは少しずつ気持ちが落ち着いてきた事に気づく。
段々とクレアの事ばかり考え出したのがその証拠だ。
「クレア……?」
「な、なんでしょう…?」
クレアも少し落ち着いたのだろうか。
身体や声に震えがない。
「……悪かった。」
「え…?!」
「アイツらが死んで……やるせない想いのやり場が分からなくて…冷たくしちまったと思ってな。」
「そ、そんな事……」
「八つ当たりみたいな事はしたくなった。だから…」
「そんな事、分かってましたから気にしないで下さい!」
「クレア…?」
「分かっていたから…強行突破をさせて頂きました。」
「…………」
胸元から少し顔をあげると、少し得意げな表情をしているクレア。
「…ハッ……そうだな。」
そんな顔をされてはもう何も言い返せない。
この目の前にいる愛しの小さな恋人は“ハンジ班の奇行種”。
決して型にはまらない、いや、いつも型破りな戦法で挑んでくるとんでもない奇行種だ。
今だってそうだ。
びしょ濡れになった身体で抱きしめてくるなど、いったいどこの誰が想像できただろうか。
だがその型破りのおかげでリヴァイは、苛々と負の感情に支配されていた心を落ち着かせることができたのだ。
このずぶ濡れの状態に一言くらいは文句を言いたかったが、クレアの奇行種っぷりに反論の言葉さえ見つからなかった。