第52章 雨
びしょ濡れのクレアに抱きしめられ、自身もびしょ濡れになってしまえば、自分が泣いたかどうかなど、誰にも分かりはしない。
クレアは、素直に気持ちを打ち明けなかった自分に痺れを切らしてこんな行動に出たのだろうか。
この俺が、誰からも気づかれずに…
心から泣ける様に…
だとしたらコイツは相当頭のイカれた奇行種だ。
だが、エルド達を失い、底知れぬ喪失感の真っ只中にいたのもまた事実。
こんなクレアの計らいに、リヴァイは段々と込み上げてくる何かを抑えることができなくなっていた。
「……情けねぇな……」
自虐的に呟くリヴァイ。
「情けなくなんかありません。フレイアを失った時に兵長がしてくださった事を…今度は私にさせて下さい…全てはこの雨が、流してくれますから……全ては…この雨のせいにしましょう……」
「そうか……悪いな……」
すると、リヴァイはクレアの背中に腕を回してキツく抱きしめ返す。
その腕も、濡れたクレアの水分を吸い込んでいき、みるみるリヴァイの腕も濡れていく。
そしてリヴァイは、クレアを抱きしめ返すと、じっと黙り、動かなくなった。
エルド、ペトラ、オルオ、グンタ……
危険を顧みず、命を賭して今まで自分の側にいてくれた勇敢な部下達。
彼らの明るさに、勇敢さに、どれだけ救われた事か。
彼らがいなければ、クレアと結ばれる事もなかっただろう。
公私ともにリヴァイの側で力になってくれた。
そんな彼らの死を決して無駄にはできない。
女型の巨人の正体を暴き、必ず捕えると誓う。
だから、だからどうか今だけは許して欲しい。
雨に濡れた愛しい恋人の胸を借りて、慰めてもらう事を。
リヴァイの顔が埋まっているクレアの胸元がじんわりと温かくなったのは、果たして雨なのか、涙なのか……
それは、2人にしか分からない……