第52章 雨
「兵長だって…深く傷ついています……どうか、悲しい気持ちをお一人で抱えないで下さい…私にも…わたしにも…共有させて下さい…」
「…クレア……」
「私には…それくらいしかできませんから……」
エルド達の事を言ってるのだろうか。
彼らの遺体を見つけてからずっと1人で抱えていたやるせない想い。
それを、ここで吐き出せと言ってるのだろうか。
「…うっ…うぅ……ペトラさん……エルドさん……どうして……」
リヴァイを抱きしめている小さな身体がまた震えだす。
そして大切にしてきた部下の名を呼び泣き出した。
クレアだってペトラやエルドとは親しくしていたはず。悲しく想うのは当然だ。
クレアの涙声に、自然とリヴァイの目にも熱い何かが込み上げてくる。
この俺が…もらい泣きか…?
そんな時ふと思い出したのは一緒に調査兵団へと入団した大切な仲間の姿。
ファーランとイザベルだ。
自分が最後に泣いたのは、いったいいつだっただろうか…
母親が死んだ時でさえ涙は流れなかった。
勿論母親を愛していなかったわけではなかったが、あの時の自分は衰弱しきっていて、正常に涙が流れる程健康な身体ではなかった。
では、ファーランとイザベルが死んだ時、自分は泣いただろうか。
あの時は、2人の変わり果てた姿に頭が真っ白になり、目の前の巨人を手当たり次第切り刻んだ記憶はある。思考も、感情も、全てのメーターが振り切り暴走していた自覚はあった。
だが、あの時の自分は、泣いていただろうか…
すると、リヴァイはあの時も雨が降っていた事を思い出す。
泣いたかどうかなど、頭からかぶった雨のおかげで分からず終いだ。
そこまであれこれと過去の事を考えていると、リヴァイはハッと気づく。
ー兵長を濡らしているのは、この雨だけですから…ー
「………………」
クレアはこの自分に“泣いてもいい”と…そう言おうとしていたのだろうかと。