第52章 雨
「…………」
自分と目を合わせようとしてくれないリヴァイ。
クレアは何を思ったのか、キッと険しい表情をすると、ツカツカとリヴァイの方まで歩いていく。
「……?!……何だよ…俺は早く部屋へ戻れと……」
「……兵長!!失礼致します!!」
クレアはリヴァイをスルーすると、背後の大きな窓を全開にして、大粒の雨が降り注ぐ空を仰いだ。
そして窓枠に脚をかけると、立体機動を使って勢いよく外に飛び出してしまった。
「はぁ?!あんの奇行種が!!いったい何を…」
ここは2階だが、クレアは立体機動装置をまだ付けていた。
慌てて窓の外を見るがクレアの姿がどこにもない。
兵舎の屋根の上にでも行ったのだろうか。
でも何のために。
リヴァイはすぐに後を追いたかったが、立体機動装置はもう点検をして所定の場所に戻してしまった。
いくら人類最強のリヴァイとて生身の身体で飛び降りれる程不死身ではない。
それに今の自分は左脚を負傷している。
悔しいが、後を追いかける事はできず、モヤモヤとした気持ちのまま窓の外を見つめる事しかできなかった。
絶え間なく降り注ぐ雨を見上げながら、クレアは兵舎の屋根の上で呆然と立ち尽くす。
「うっ…うっ……ペトラさん…エルドさん……兵長……うぅ……うぅ……」
クレアは兵舎の屋根の上に降り立つと、灰色に染まった分厚い雲を見上げ、涙を流した。
どうして巨人は大切な人の命を…大切な人が大切にしていた命をこうも簡単に奪うのだ。
女型の巨人や壁を破壊した巨人は、中身は人間だと考えられている。
それならペトラ達は人間に殺された事になる。
もう何が何だか分からなくなった。
これからは巨人という明確な敵だけではなく、人間をも相手に戦わなくてはならないのだろうか。
そんな日がくるなど、いったい誰が考えていただろうか……