第52章 雨
その頃、リヴァイは執務室にこもり、大量の書類仕事と格闘していた。
エレンの容態が安定すれば、古城に戻らなければならない。それまでに片付けておきたい仕事が山程ある。
しかし、仕事がまったく手につかなかった。
今まで自分を慕ってくれた部下を何人も死なせてしまってきた。
勿論、顔も名前も全員覚えている。
決して命を賭して戦ってくれた兵士の命に優劣をつけるわけではないのだが、リヴァイは一度に4人もの部下を失った事に思いのほかダメージを受けていた。
エルヴィンやクレアの前では平静を装ったが、こうして1人になると、なんともやるせない想いがこみ上げてくる。
おまけに外は朝の晴天とはうってかわり雨が降り出してきた。
どんどん雨足は強くなり、雨具を着ても古城に着く頃には全身びしょ濡れだろう。
そして、エレンを救うために無茶をしたミカサを庇った時、リヴァイは左脚を痛めていた。
「……チッ…」
やるせない想いに仲間を亡くした悲しみと虚無感、そして負傷した脚からズキズキと規則的に響いてくる痛み。
やり場のない想いが苛立ちとなってリヴァイの全身を負の感情で支配する。
外の雨音でさえリヴァイの苛立ちを逆撫でしてしまう。
医務室に行けば、この痛む脚をクレアが診てくれる筈だ。だが今のリヴァイには、まともにクレアと話ができる状態ではなかった。
全ては自分の選択が間違ってた故に起きた事だ。
どんなに苛立っていても、クレアのせいではない。
そんな事は十分分かりきってはいるが、今のリヴァイはどうしてもクレアと会う事ができなかった。
この苛立ちを……純真で、無垢で、真っ直ぐなクレアにぶつけてしまいそうで怖かったのだ。
この所まともに話もしていない。
だから無事の帰還を喜び、生きて再会できた事を確かめ合いたかったが、クレアの優しさに甘えて八つ当たりをしてしまいそうで、リヴァイは医務室には行けないでいた。