第51章 第57回壁外調査
「ジャン…?どうしたの?」
固まったまま動かなくなってしまったジャンを少し心配したクレアは、近づき顔を覗き込んだ。
「あっ!い、イヤ…なんでもないっス…!!」
「でも……」
今日は壁外調査の当日の朝。
しかも例年よりだいぶ早い初陣だ。
志高く調査兵団へ入団してきた彼等104期の気持ちは計り知れない。
クレアは同期や後輩を見てきた分、そして何より自分自身がその恐怖を体験した分、ジャンの様子が気になってしまった。
「気分悪くなっちゃったりしてない?」
クレアは熱がでたりしてないか確認しようと、背伸びをしながらジャンの額めがけて手を伸ばした。
「あぁぁぁ…!!!」
「え?!」
変な叫び声を上げて更に硬直するジャンにクレアは驚き、額に触れていた手を引っ込めてしまった。
「はぁ…はぁ…う、クレアさん…ダ、ダメですよ…」
バクバクと暴走する胸元を押さえながらジャンは絞り出すように呟く。
可憐で可愛い人形の様なクレアが、今日は髪を結い上げてキレイにまとめていた。
おそらく壁外に出るため邪魔にならない様にまとめたのだろう。
女の髪事情など全く分からないジャンだが、なんとかその位は理解できた。
しかし、規則的に並んでいるサイドの編み込みに、崩れないようにキチンと丸められた髪。
さらには華奢で小さなクレアの細い首から見えるうなじに、フワリと甘い花のような香り。
幼くて可憐な姿に、美しくて色っぽく誘う蜂蜜色の後れ毛が覗くうなじ。
もう目の前で無防備に自身を見つめているこの存在の年齢が全く分からなくなってしまった。
2期上だから単純に2歳年上だと思っていたが、艶めかしいうなじは大人の色気を漂わせている。
だからといって無防備に見つめてくるこの顔はどう見ても年下。ジャンとコニーで愛読している決して健全ではない雑誌の用語を使うのなら完全にクレアは“妹キャラ”、“妹萌え”だ。