第51章 第57回壁外調査
「そ、そうだよ?ね、ねえ…なんか、私変かな?」
クレアは自身の手で安楽死の処置を施した後輩、アンドレの事を思い出した。
アンドレも初陣の朝、クレアの顔を見て同じ事を言ったのだ。
髪型がいつもと違うから不思議に思うのも無理はないが、こうも続くとマイナスな方に意識がいってしまう。
「い、イヤ……そんな事は決して……」
ジャンはしどろもどろになりながら答えるが、自身の意思に反して心臓はドクドクと高鳴り、なんだか顔周りが熱い。
訓練兵団では巨人を駆逐駆逐と喚いてたエレンに、化け物級のミカサ、そして教官の前で芋を食ったサシャ、おめでたい程頭の悪いコニー…
とにかく個性派揃いのメンツと3年間共に過ごしてきたせいで、十分に目が肥えていたはずなのだが、調査兵団に入ってまず心を奪われたのはクレアの姿だった。
小さな身体を活かして最速で森を抜け、巨人の模型を次々と切っていくクレア。
その目つきはサディスティックなまでに好戦的だが、訓練を終えると、人格が変わったようにおっとりとした表情に変わる。
結った蜂蜜色の長い髪がサラリと美しく風になびき、大きな蒼い瞳は硝子玉の様に光輝いている。
パッと見は小さくて幼い少女の様なクレア。
初めて姿を見た時はとても歳上の先輩兵士には見えなかった。
しかし、話を聞けば自分より2期上だった。
そしてミカサとエレンとは幼い時に一緒に過ごしていた時期もあるという話題で、すぐに親しくしてもらった。
いつも会えば明るい笑顔で挨拶をしてくれるクレア。
訓練でうまくいかない事があれば親切に教えてくれたクレア。
まだ入団して間もないが、確実にクレアに心を奪われていたジャン。
これが、恋愛感情なのかはまだ15のジャンにはわからなかったが、今目の前にいるクレアがあの長い髪を結い上げている。
ただそれだけの事なのにジャンは実に思春期の男子らしい反応をしてしまっていた。