第50章 作戦
そしてその夜。
いつもの様にハンジの執務室で仕事をしていると、声をかけられた。
「クレア…ごめん、今ちょっといい?」
「ハンジさん?どうしました?大丈夫ですけど…?」
クレアは火加減を弱にすると、隣に腰掛けたハンジの方に身体を向ける。
「な、なんでしょうか…?」
「間もなく行われる壁外調査の事なんだけど…」
「は、はい……」
「表向きの作戦はカラネス区からの補給ルート確保、エレンの存在意義の証明、そして新兵達の初陣だ。」
「…表向き…ですか?」
あまり聞き慣れない言葉に首を傾げてしまう。
表向きの作戦。
表があるという事は、当然裏もあるという事。
今までそんな作戦で壁外調査が行われる事などなかったため、少し戸惑いの表情になってしまう。
「あぁ…表向きだ。もうここまで話せばわかると思うけど、表向きの作戦がある以上裏の作戦も存在するわけで…」
「はい…」
「でも、理由があって、クレアにその作戦を教える事ができないんだ。」
「え?」
「こんな事言っといて勝手なのは承知の上だけど…どうか次の壁外調査では、疑問に思う事があっても何も聞かずに最後まで命令に従って欲しいんだ。」
「…………」
「裏の作戦を知っているのはある条件を満たしたわずかな人数の調査兵だ。それ以外の兵士には裏の作戦がある事も伝えられない。」
「で、では何故私は…私だけ、裏の作戦がある事を知らされたのでしょうか…?」
クレアの言い分ももっともだ。
自身がその条件を満たしていないのなら、聞くべき話ではなかっただろう。
それなのに何故?
「クレアに話す許可を出したのはエルヴィンだ。」
「団長が…ですか?」
「この間、クレアが話してくれた疑問。それと…ソニーとビーンが殺された時にエルヴィンがクレアに問いかけた質問の答え。クレアはそこまで深く考えてなかったかもしれないけど、エルヴィンはその鋭い感性を評価して、ここまで話すことを許可したんだ。」