第50章 作戦
あの時使った薬はリヴァイ個人の私物だったが、馬に使う薬なのだ。馬具倉庫に行けばあるはずだ。
馬当番の洗礼は毎年の恒例行事。
リヴァイもハンジも、これを乗り越え壁外調査で生きて帰ってこれたら1人前だと言っていた。
そのため、これも試練だと新兵達にあの特効薬を教える事はしていなかった。
だが、彼ら104期はトロスト区の襲撃事件で巨人の脅威を目の当たりにしても、その恐怖心に負けず勇敢に入団してくれたのだ。
にも関わらず歓迎会も自粛で流れてすぐに厳しい訓練が開始。
「あのね…実はそれね…」
少しかわいそうに思ったクレアはこっそりとあの特効薬を教えてあげようとしたのだが…
「おい、クレア……」
背後からクレアの名を呼んだのは、不機嫌さが伺える人類最強の兵士長。
「あ…兵長……」
「「「「リヴァイ兵長…!」」」」
今の会話を聞かれていただろうか。
少し気不味い表情でリヴァイを見つめるクレア。
「おい、ガキ共…馬の管理も訓練のうちだ。壁外調査では自分の愛馬ではない馬に乗る事もあるかもしれないからな。泣きごと言ってる暇があるなら今夜はさっさと寝るんだな…ホラ、行くぞ。」
「あっ……兵長…?!」
リヴァイは目の前にいた104期の4人を一喝すると、クレアを引きずるように兵舎へと向かって行ってしまった。
ーバタンー
「クレア、お前アイツらに何を教えようとしていた?」
「あ…えと……それは…その……」
リヴァイはクレアを執務室に連れてくると、鋭い追求をしてきた。
「まさか、あの特効薬を教えてやるつもりだったとか…言わねぇよな?」
机の上に置かれた書類の束をペラペラとめくり、内容を確認しながらクレアの痛いところをついたリヴァイ。
「う………」
クレアは図星とだけあって何も言い返せず、リヴァイから視線を外しながらただその場に突っ立っている事しかできなかった。