第8章 迷える想い
「兵長!大変お世話になりました。着替えに戻りますので、失礼します!」
クレアは一応のお礼を言うと、慌てて部屋を飛び出していった。
リヴァイは顔を洗い、身支度を整えると、再びゴロンとベッドに倒れ込んだ。
クレアの香りが移ったタオルケットを顔にバサッとかけると、昨夜のことを思い返す。
クレアを抱きしめたのはまったくの無意識であった。
でもクレアの身体はとても柔らかく、リヴァイの腕に感じた抱き心地は最高の感触だった。
しばらくクレアの香りと感触を反芻(はんすう)していたが、そろそろ執務室に行かなければならない時間だ。
リヴァイは仕方なくタオルケットを几帳面に畳むと、昨日サインをもらい損ねた書類を手に自室を出ていった。
自室をでてカギをかけると、ほぼ同時に斜め向かいの扉があいた。
昨日のもろもろの事件の犯人、ハンジである。
「よぉクソメガネ、いいお目覚めみてぇだな……」
「あー!リヴァイおはよう!目ぇ覚めたら自分のベッドだった…アハハ、またやっちゃったみたい。はぁー、モブリット怒ってるかなぁ。」
またやってしまったとばかりに苦笑いをした。
「おい、風呂には入ったのか?」
「今朝入ったよー。5日ぶりだったかな、アハハハハ!」
「笑い事じゃねーよ。おい、この書類、すぐに目を通してサインしろ。エルヴィンのとこまで持っていく。昨日執務室に行ったらお前はあの奇行種と居眠り決め込んでやがってたからな、とんだ骨折り損だった…」
「えー?クレアも?そうだったの?」
「詳しくはモブリットにでも聞いとけ。」
リヴァイは乱暴に書類の束をハンジに突きつけ、眉間に皺を寄せると不機嫌そうに腕を組んだ……
「ん?あれ?リヴァイ…?まさか昨夜はクレアと一緒にいたの?…っていうか一緒に寝た?」
まさかのハンジの鋭い指摘に固まってしまった。
「あぁ?!いきなりなんだよ、クソメガネ。」
「リヴァーイ…気づいてないんだね。クレアと同じ香りがするよ。クレアは近くに寄らないとわからないくらいにしか香油をつけないから、リヴァイにまで香りが移るなんてことは……」
「いったい何が言いてぇ?!」
珍しく、ハンジ相手にバツが悪そうだ。