第8章 迷える想い
カーテンからうす日がさしはじめてきた。
リヴァイはまだ半分夢の中だ。
大量のオレンジ色の小さな花びらが宙を舞い、視界はオレンジ一色だった。
何かを必死に追いかけているような、何かを捕まえようとしているような、とてももどかしい気持ちだった。
そしてリヴァイは手探りで腕を伸ばすと、宙を舞うオレンジ色の花びらの中から何かを捕まえた。
…やっと捕まえた…
思いっきりひっぱり、自身の腕に抱いた……
絶対に逃げることができぬよう力をこめて………
「……………!」
キンモクセイの香りに包まれながら、リヴァイは目を覚ました。
よくよく自身を確認すると、クレアを背中からしっかり抱きしめた体勢だ。この状態で一晩眠っていたようだ。
時刻は5時を過ぎたあたりであろうか。
うっすらとカーテンから光が入ってきている。
睡眠時間はいつもとさして変わりがないが、眠りが深かったのだろうか、すっきりと目が覚め、身体が軽かった。昨夜の睡眠の質がよかったことがはっきりわかる。
リヴァイはクレアを抱きしめる腕に少し力を入れると、うなじあたりに顔をうずめ、キンモクセイの香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
体中がクレアの香りでいっぱいになり満足すると、起き上がってベッドに腰かける。
クレアの頬に触れながら、改めて自分に問いかけてみた。
これは、「恋」なのだろうか?と。
兵団内の恋愛は特に禁止はされていない。
恋人同士の兵士もけっこういる。
だが、幸せになった者など一人もいなかった。
壁外調査で2人同時に死ねればまだ幸せだ。
恋人を失ってもなお正気に戦えた兵士など今までにいたであろうか。
前向きに立ち直り、兵士としてその命尽きるまで戦えた者は何人いただろうか。
我を失い、自死の道を選んでしまう者も少なくないのだ。
調査兵団は生存率が極めて低い。それはクレアとて例外ではない。
明るい未来のない恋にいったい何を求めるのか。
リヴァイはクレアを恋人にしたいのかどうかさえも分からないでいた。
しかし、この自分の中を支配する、クレアへの独占欲だけは、どうしても止めることができなかった。
頬を撫で、唇を親指でなぞると、クレアの瞼が揺れだした。