第8章 迷える想い
ここにこうやって立っているのも、かなり怪しい。もしかしたら誰かに見られるかもしれない。
「……」
…エルヴィンならまだ起きてるだろうか…
いや、ダメだ…エルヴィンのところにつれていったりしたら、逆に自分が預かるとでも言い出しかねない。
「チッ、しかたねぇな……」
リヴァイは今きた道のりを戻っていった。
──ガチャ──
連れてきたのは、リヴァイの自室だった。
コイツの部屋がわからないのだ。もうここしかないだろう。
リヴァイは心の中で、正当な言い訳を呟く。
広いベッドの奥の方に寝かせてタオルケットをかけてやると、クレアは小さく身じろいだ。
起きる様子もなかったため、リヴァイはシャワー室へとむかった。
シャワーをすませると、ベッドに腰かけてクレアの寝顔を見つめる。
この白い肌も
この柔らかな唇も
この艷やかな蜂蜜色の長い髪も
この小さな手も
クレアの全てを、自分以外の男には触れさせたくはない。
でもクレアは鈍感で無防備だ。
なんでもかんでも感情のおもむくままに行動し、男を勘違いさせるような言動をする時がある。
それを、他の男に、自分の見ていない時にしてしまうのではないかと思うと気が気ではない。
訓練兵団へ視察に行った時からクレアに特別な何かを感じてはいたが、入団してからはそれがはっきりとクレアに対しての独占欲なんだと自覚はしていた。
だがさすがのリヴァイも30代のいい大人だ。
その独占欲の正体にも、うすうす気づき始めていた。
これが、「恋」なのではないかと
しかし、そう簡単に認められる訳はない。
リヴァイ自身、この年になるまで恋などしたことなかった。自分自身でもどうしたらよいのかわからなかったのだ。
胸がチクリと痛んでキンモクセイの香りがリヴァイを包む。
触り心地のいいクレアの髪を指に絡ませると、気持ち良さそうに眠るクレアの髪は、今はリヴァイだけのもの。
キンモクセイの香りに急かされるように心がザワついた。
そろそろ眠らなければと思えば思うほど、ずっと触っていたくて、過ぎてゆく時間がたまらなく惜しかった。