第49章 104期入団
「あ、あの…兵長……」
半分ほど開いた馬具倉庫の扉から声をかけると、リヴァイは声でクレアだと気づいたのか、スッと振り返る。
「クレアか…?いったいどうした?」
クレアは執務室から逃げる様に去って行ってしまったため、まさか自分に会いに来るとは思ってもみなかったリヴァイ。少し驚いた様な表情だ。
「あ、あの…さっきはすみませんでした。エレンが来て、私…ちょっと恥ずかしくなってしまって。だから…その…」
訓練やエレンの調査などではすぐにまた会えるだろう。しかし、今を逃したら次いつ2人きりで言葉を交わす事ができるのか全くもって不明なのだ。
ちゃんと伝えなくては。
「…いったいどうしたんだ?」
すると、クレアは朝でも暗い倉庫の中に足を踏み入れると、リヴァイの前に立ちその目を見つめる。
鋭く、冷徹な印象を与えてしまう三白眼の瞳。
でも、この瞳に宿る優しさを、強さを、自分はよく知っている。吸い込まれてしまいそうなリヴァイの目力に心臓の鼓動が早くなるが、もうなりふり構ってはいられない。
「へ、兵長…どうかお気をつけて…さ、寂しいですが…私も訓練に励みますので……」
「…!?」
言った!!
ちゃんと言えた!!
でもやはり勇気を振り絞った。
どんどん顔が上気していくのが分かる。
ここが窓の無い倉庫で助かったと心の中で呟くクレア。
中は暗いため、自分の顔が真っ赤に上気している事はきっと悟られてはいないだろう。
しかし、ここが窓の無い倉庫で助かったと思ったのはクレアだけではなかった様だ。
クレアがわざわざ自分を送り出すために声をかけてきた。
たったそれだけの事と言う者もいるかもしれないが、この所ずっとすれ違ったままだったリヴァイとクレア。
少し複雑に絡まってしまった2人の糸が、今の言葉によりスッとほどけていくのをリヴァイは感じた様だ。
気づけばその手は倉庫の扉を閉めていた。