第8章 迷える想い
こうなると、絶対にハンジは翌朝まで起きない。
いつもは、モブリットがハンジの自室まで運ぶが、今はいない。
小柄なクレアでは運べそうもない。
「仕方ない……モブリットさんが来るまで待とう。」
クレアは紅茶を飲みながら、精製されていく媚薬の火加減を注意深く確認する。
いつもは3人で話をしたり、何かしらの作業をしているため感じたことはなかったが、1人で黙っているこの状況はなんだか退屈だ。
隣で眠るハンジの寝息が静かな執務室に心地よく響いている。
すると、ハンジの寝息につられて、クレアもだんだん眠気がでてきてしまった。
「あぁ、いけない!このままじゃ寝ちゃいそう…」
クレアはパンパンと自身の両頬を叩いた。
──リヴァイ執務室──
「クソ、これはアイツのサインが必要な書類だ…」
時刻は11時をとっくに過ぎていた。
幹部は通常の執務も多いが、壁外調査の前後は特に多忙になる。
急ぎの書類にハンジのサインが必要なものが出てきてしまったのだ。
どうせアイツの事だ、今日も日付がかわるまであそこにいるだろう。
リヴァイは、全ての仕事が片付いてから、最後にハンジのサインをもらいに行くことにした。
そうすれば、そのまま自室に戻って休めばいい。
急ぎ足で片付けたが、時刻は12時をまわろうとしていた。
執務室のカギを閉め、書類を片手にハンジのもとへ向かう。
旧舎につながる古い扉を開けると、ハンジの執務室の扉が半分あいているのが見えた。
不思議に思い中を覗くと、モブリットが呆れたように立ち尽くしているではないか。
「おい、モブリット。どうした?」
「え?リヴァイ兵長?どうされましたか?」
「ハンジのサインが必要な書類がでてきた。とっとと書かせてくれ。俺はもう休みてぇ。」
「すみません、兵長。私も分隊長の仕事を片付けて、今きたところなのですが…」
モブリットが部屋の中程を指差した。
リヴァイは中に入り、その方向に目を向けると
「おい…これはいったいどういう状況だ…」
そこには、メガネをかけたままつっぷして眠るハンジと、それにもたれかかって眠るクレアの姿であった。