第8章 迷える想い
壁外調査の日程が決まると、兵団内の空気はガラッと変わった。
普段の訓練もより一層に真剣さが増し、早朝や夕刻も、自主練習をする兵士もちらほらいた。
クレアも訓練兵時代のことを考えると、自主練習に精をだしたいところだったが、ハンジの手伝いもあり、無理をしないこと、と念を押されているため、通常の時間内の訓練で集中力を出し切るようにしている。
そして、今夜もいつもの様にハンジの執務室へ急いだ。
「ハンジさーん!すみません!遅くなりました!」
「大丈夫だよ、あれ?今日はもうお風呂に入ってきたの?」
「はい…珍しく同室のフレイアに誘われて。一緒に入ってからきました。………あれ?モブリットさんはまだですか?」
いつも必ずクレアより先に執務室に来ているモブリットが見当たらなかった。
「あぁ、モブリットはね……私が完全にサボって溜めた分の執務を今代理でやってもらってるんだ……アハ、アハハハハ……」
頭をボリボリかきながら苦笑いをしていた。
「ハンジさんこそ、ここ最近ちゃんと寝てないんじゃないですか?壁外調査も近いですし、無理なさらないでくださいね。」
モブリットから聞いた話だとここ数日、ハンジは媚薬の精製はもちろんだが、技巧班の会議や、別件の研究なんかで、ろくに自室に戻っていないようだった。
「大丈夫!大丈夫!」
「本当ですか?モブリットさんにお説教される前にちゃんと部屋で寝てくださいね。」
クレアは紅茶でも淹れようと、お湯を沸かしに行った。2人分の紅茶を淹れて、ハンジのもとまで戻ったクレアはまさかの光景に、盛大なため息をつく。
「はぁぁぁぁぁぁ……ハンジさぁーーーん……」
ハンジはクレアが紅茶を入れに行ってるわずか数分の間に眠ってしまっていたのだ。
机の上にメガネをかけたままつっぷして、スースーと寝息をたてて、気持ち良さそうに眠っている。
ハンジは徹夜が続いても、決して早上がりなどはせず仕事や研究に没頭するため、いきなり気絶するように眠ってしまうという事態を月に数回は起こしていた。
「どうしよう……」