第48章 嫌疑と再会
あれは…あの人は……
外界の音が遮断された妙な静けさの中、エレンは自身の心臓の鼓動がドクドクと煩く拍動していく感覚に戸惑いを隠せなかった。
…まさか…もしかして…クレアさん…なのか…でも…どうしてこんな所に…
エレンの中に残っていたクレアの記憶。
幼き頃、父の知り合いの医者の家に何度か連れてってもらった事があった。
その時に診療所を手伝っていると紹介された父の知り合いの医者の一人娘の名は、クレア・トート。
蜂蜜色の艷やかな長い髪に、硝子玉の様な蒼い瞳。
連れて行かれた時にはいつも彼女が自分の面倒を見てくれていた。
ミカサと暮らす様になると、ミカサやアルミンと一緒にいる事が多くなったため、クレアと会う事は殆どなくなっていった。
そしてあの忌まわしきシガンシナ区の襲撃だ。
家族を失った自分達は、自分達が生きるのに必死で、クレアの安否の事など気にかける余裕などまったくなかった。
当時はまだ10歳だったため、孤児院へ行く事しか選択肢がなかった。
しかし何もせずに孤児院で過ごすなど、偽りの平安の様に感じでしまった3人は、孤児院に身を寄せる事を断固として希望しなかった。
そのため3人は訓練兵団を強く希望している旨を主張し、12歳になるまで開拓地へ行く事を特別に許可してもらって今に至るのだ。
そんなこんなで目まぐるしい日々を過ごしていたせいで、クレアの事は記憶の片隅に追いやられてしまっていたが、決して忘れていたわけではない。
あまり愛想が良かった印象はなかったが、きらきらと輝く蜂蜜色の長い髪に吸い込まれてしまいそうな蒼い瞳の、まるで人形の様なクレアは愛想が良くないなりにも自分の面倒を付きっきりでみてくれていた。
記憶の片隅で眠っていたクレアとの思い出が湧き出る様に次々と溢れてくる。
それと同時にあの蒼い硝子玉の瞳と目が合った様な気がしたエレン。