第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第4章 第四章「第八深淵少女」
「でも、メレンスに来るのは何なんだろうね。既に三回襲来してる訳だし。」
リア姉は、タオルを鏡の下の台に置くと、シャワーヘッドを取って水を出し温度を確認する。白い湯煙が、私にも視認出来た頃に金属のホースを伸ばして私に掛けた。
「温度はこれで大丈夫か? ここのは初めてだから感覚が分からないが。」
リア姉は、私の髪を濡らしながら訊く。肌に触れた時に少しぬるく感じたものの、リア姉とは小さい頃から何度もお風呂に入っていたから、私に適した温度を覚えているみたいだ。
「うん、この温かさで大丈夫。でも、熱があるから少しぬるく感じちゃうけどね。」
そう、笑った声が浴場に反響して聞こえる。気付いた時には、全身が湯気で覆われていて寒さを感じなくなり、気持ちが安らぐ。
「あれ、また髪伸びたか? 相変わらず伸びるの早いよなー。」
リア姉は、私の髪を十分に濡らし終わると、洗髪剤を容器から手に出す。軽く泡立てると、私の髪を上から洗い始めた。
「まあ今は、目先の問題の解決に当たった方が確実だろうな。」
「...うん。」
翌日、熱も下がり回復した私は、水月ちゃんとの約束通り、休息に専念する事になった。その日は、水月ちゃんの希望で遊園地に行く事にして、一日を十分に楽しむことが出来た。
「フィ、何書いてるの?」
「...ん? あ、詩を書いてた。もう行くの?」
水月ちゃんは、私の肩越しから覗き込むようにして、机に置かれた一枚の紙に眼を通していた。今日は私の希望で、移動させる前の竹華ちゃんのお墓に行く事になっている。私は、その為の手紙を書いていたのだ。正直、今日も竹華ちゃんが現れてくれるかは分からないが、お墓に供えておけば何時か読んでくれるだろう。
「ふふ。じゃあ、フィが書き終わってからかな。」
水月ちゃんは、その詩の内容が気になっているのか、どんどんと前に出て覗き込もうとしている。だから私は、見えないように手で覆い隠した。
「だーめっ。これは私と竹華ちゃんの、二人だけしか見れないものだから。」
そう言うと、水月ちゃんは頬に二つ風船をつくった。
「見ーせーてっ。」
水月ちゃんは、私の脇腹を擽ってでも内容を知りたいのか、あの手この手で見ようとするが、死守する。
「そんなに見たいの?」
「うんっ!」
水月ちゃんは、首が取れるのではないかという勢いで、二つ返事で答えた。