第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第4章 第四章「第八深淵少女」
「でも、苣さんって謎に包まれた人っていうか、少し不思議な人だよね。」
その言葉に、私は少し違和感を覚えたものの、そう思う理由が水月ちゃんにはあるのだろうと思い、深めるような質問を掛けてみた。
「...? 水月ちゃんは、どうしてそう思うの?」
(自身の状況説明が為されていない)水月ちゃんは、少し考え込んだ様子で口を閉じる。しかし、水月ちゃんは直ぐにその口を開いて、苣清さんの詳細を話す。
「私が、住職を特別な人と思っているからかも知れないけど、たまに苣さんが誰かに話し掛けているみたいに、独り言を口にしてるから変わった人だなって。...若しかして、フィもそういう時ってあったりするの?」
「私? どうだろ。でも仕事してる時に、状況を整理するために声に出してみる事はあるかな。」
そう返すと、水月ちゃんは素っ気無く(?訂正百)頷いて返した。
そんな事を話しながら水月ちゃんに付いて行くと、直ぐに一つの墓石が見えてきた。見た限り、これ以外の墓石は見当たらない。
「あれ? この寺って竹華ちゃんのお墓しかないんだね。」
その事に、私は少しの違和を覚えた。水月ちゃんは私の手を離し、脇に敷き詰められた砂利を踏み込んで、小さな物置小屋の戸を開けている。私は水月ちゃんの後を追うように、足早に物置小屋に向かう。
「フィ、少しこれ持っててくれる?」
そう言って渡されたのは、所々汚れて糸の解れた雑巾と肌触りの良い真っ白な布が二枚。それに、可愛らしい大きさの水桶も一緒に渡された。これらを見る限り、墓石の掃除に使うのだろう。水月ちゃんはまだ何かを探しているようで、私は物置小屋を後ろから覗き見る。どうやら竹箒を取ろうとしているらしい。
「よし、じゃあ行こっか。」
水月ちゃんは箒を持って物置小屋から出てくると、私の前を横切ってゆっくりお墓まで向かう。しかし、物置小屋の戸は開けっ放しのまま。水月ちゃんが理由も無く開けておく筈が無いだろうが、私は優しく戸を閉めた。私は水月ちゃんの後を追い掛けて、既に掃除を始めている水月ちゃんの元に行った。水月ちゃんは、お墓の前の石畳に乗った砂利を、竹箒で黙々とかき出している。