第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第4章 第四章「第八深淵少女」
「ほらっ、...おいでっ。フィが落ち着くまで、幾らでもここにいて良いから。泣きたい時は、我慢しないで沢山泣けばいいから。」
リア姉は、手を広げて大きく包み込んでくれる。この温もりに触れると涙が出るのはどうしてなんだろう。今の私には、そんな事さえ考える事が出来ない。小さい頃にはこんな事、簡単だったろうに。だから...、嫌いなんだ。
聞こえる...、小さな笑い声。肌に触れる温もりのあるもの。それで、私は眼が覚めた。二重に重なる水月ちゃんが、小さく口をぽかりと開いて私を見下ろす。
「へへぇ、起こしちゃったかな? おはよう、もう朝だよっ。」
私の乱れた髪を、そっと直しながら言う。部屋に窓は無いから、朝かどうか確認出来ない。水月ちゃんは、一度私の元を離れてトイレに行ったのだろう。寝間着から、いつもの可愛らしい兎の普段着に変わっているのを見ると、何となく想像出来る。
私と水月ちゃん以外の、聞き慣れた寝息が左から聞こえて、頭を動かす。リア姉が、狭い空いた空間に気持ち良さそうに寝ていた。リア姉は私の腰に手を通し、離れまいとくっ付いている。
「リアさん、フィの事本当に好きなんだね。私が起きた時、まだ起きてフィの事介抱してたからびっくりしちゃった。」
それを聞いて、いつものリア姉だと安心する半面、身体的な問題の方が心配になる。あのまま私は、リア姉に抱き付いたまま寝てしまったのか。でも、その事を余り覚えていない。リア姉の心音に落ち着いて寝てしまったのか...。何処か恥ずかしい。
「だからリアさんに、私が見守るからって言って、漸くさっき寝たばかり。気持ち良さそうに寝ているし 、起こさないであげてね。」
私は、迷わず頷く。リア姉の方に向き直り、眠っているのを良い事に抱き付いて甘えてみる。すると、寝ているのにも関わらず、小さく微笑んで頬を擦り付けてくる。風花ちゃんみたいな反応を示し、不覚にも笑ってしまう。
「水月ちゃん、少しだけお姉ちゃんにこうしてて良いかな? ご飯は、お姉ちゃんと一緒に食べたいから。」
私は、リア姉の頬を突いて遊ぶ。
「ふふ、お姉ちゃん...。」
暫く弄っていると、流石に不快に思い怒ったのか、私の指を咥えて全く離そうとしない。この部分だけを切り取ってみたら、赤子と何一つ変わらない程愛くるしい。