第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第4章 第四章「第八深淵少女」
「さっ、早く下も拭いて寝よっ。流石にもう眠いわ。」
リア姉は、また欠伸をしている。今がどのくらいの時間なのかは分からないが、夜明けが近い事は長年の経験上理解出来る。そんな小さな事を考えていると、大腿の辺りに異様な違和を感じて、飛ぶように視線を走らせると、リア姉が下の衣服を脱がそうとしていた。
「えっ、ちょっお姉ちゃん何してるのっ?」
私は急いでリア姉の手を払い、寝間着を上げ直す。すると、その事に驚いたようで、時が止まったように動かなくなり、手だけが微かに震えているのが見える。
「あっ...ごめん。...少しびっくりして払っちゃっただけで、嫌で払ったわけじゃ無いの...。」
そう必死に釈明すると、分かってくれたのか強張った表情が解ける。
「分かった。じゃあ、嫌じゃないんだったら私が脱がしても問題無いよな?」
そう言うと、再びリア姉は寝間着を剥ごうとする。だから私はもう一度、リア姉の手を払った。
「もうっ...、そういう意味じゃないよ。脱ぐ事くらい自分で出来るから。」
「じゃあ、私はそれを見守ってる。何かあってからじゃ遅いからな。」
リア姉は、言葉の通り私から視線を外す事無く見守ってる。でも、これじゃあ脱ぎにくくて仕方が無い。陰で見守り、支えてくれていたリア姉が、自ら私の所に来て執拗に支えてくれるようになったのは何時からだろう。青の洞窟に行った時からか。いや、恐らくお姉ちゃんたちに冷たく接するようになったから。心の中では、一人の妹として大切に可愛がってくれたお姉ちゃんを、ありがたく思っていても、私の口から出る言葉は、いつも針のように冷たく尖っていた。そこまでしてくれているリア姉が、私にとって嬉しいくらいなのに嘘を付いてしまう。『ありがとう。』、只それだけなのに...。今の曲がった自分が嫌になる。
「...ごめんね。」
だから、いつも謝る事しか出来ない。
「えっ、...どうしたんだ? 急に...。って、何泣いてるんだよ。」
リア姉が涙で霞んで良く見えない。心配して、涙を拭うリア姉の手が温かくて、また涙が零れてしまう。