第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第4章 第四章「第八深淵少女」
「じゃあ、今何で私にその事を訊いたんだ? 少しでも自分でそうしたいって思ったからだろ?だったら私は、その気持ちを尊重するまで。メグ姉の事は私が説得するから、な?」
そう、リア姉は私の身体を拭きながら言う。リア姉の言っている事は確かであり、揺るがない真実である。だからこそ、リア姉の考えている事が眼に見えて理解出来、頬の辺りが熱く感じた。
「私は仕事があるから明日には戻らないといけないけど、どうする? もう暫く残るか?」
既に二回も熱を出して迷惑を掛けているのに、余り長居されても気分は良くないだろう。それでも、水月ちゃんに何も言わずに帰れば、却って心配を掛けそうで帰れない。...あと数日くらいなら...、うん。
「うん、残る。」
そう言うと、リア姉は天井を見上げて考え込む。
「分かった、陽が三回沈んだ頃に迎えに来るから、帰る準備だけは済ませておいてな。」
「うんっ。」
私は、頭痛を忘れて大きく頭を下ろす。だからその直後には、手で押さえなければならない程の頭痛に襲われて、身体がふらつく。
「おっと。...無理させすぎたな。少し横になりな。後は下だけだし、横になりながらでも拭けるからな。」
リア姉は、手早に服を着せて釦を一つ一つと穴に通していく。私はリア姉に支えてもらいながら、ゆっくり少しずつ横になった。
「うーん...、また熱上がってきてるな。」
リア姉は顔を近づけて、額を合わせて自身の体温と比べている。その表情は、険しく難しい顔をしていた。
「私、氷嚢持って来ましょうか? 直ぐに用意出来ますよ。」
「じゃあ、二つ程下さい。」
先程までリア姉の近くにいた緑針さんは、いつの間にか水月ちゃんの傍に座っていた。他の事に気を取られていて、移動していた事さえ気が付かなかった。
「二つですね。分かりました。」
緑針さんは、水月ちゃんの元を離れて部屋を出ていく。ふと、水月ちゃんの方に眼を向けると、水月ちゃんの頬は何故か少し濡れていた。私は、水月ちゃんを起こさないように気を遣いながら、そっと頬を撫でた。水月ちゃんはどうして泣いていたのだろう。嬉しさなのか、悲しみなのか、怒りなのかさえ分からない。しかし、それを明日に訊いたとしても、水月ちゃんは何の事だか覚えていないだろう。だから、考えるのを止めた。