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第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第1章 第一章「乖離的慣性の法則」


「お嬢様っ?」
「んっ、どうしたの?」
「今向かっている村って、どんな所でしょうね。」
「楽しい所だと良いよねっ。」
「はいっ。」
今のミシアちゃんは、これが仕事だと忘れているんじゃないかと思わせる程に、子供みたいに元気だった。これが何時まで持つんだろう。
 漸く竹林に入ると、先程まで地面に照り付けていた反射光が柔らかくなり、ミシアちゃんは差していた日傘を閉じる。竹の隙間から漏れる光は、レースカーテンのように、揺れては静止を時計のように繰り返していた。竹の足元をよく見ると、筍が頭だけ見せている。まぁでも、竹の後ろから顔を覗かせている背の低い幼げな少女が気になって殆ど視界に入ってなかったけど。
「ん、お嬢様どうかしましたか?」
私は足を止め、態とらしく彼女に目を合わせてみても動じる様子は無い。彼女の眼は、例えるなら生物学者だろうか。あの物珍しそうに見る眼は、人の本質的なものに近い気がする。夕刻を迎えようと沈み往く太陽に攫われては困るから、私は彼女の方に歩み寄った。
「隠れてないで出ておいでっ、貴女はこの近くの村の娘かな?」
「私、あなたなんて名前じゃないよ?因幡 水月(いなば なつき)。お姉さんがツェントルム?」
彼女、水月は竹々の陰からそっと出てきては、尤もらしい指摘をされる。
「うん、そうだよ。そう、水月ちゃんっていうのね。覚えておくね。」
そう言うと、水月ちゃんは愛らしく元気良く頷いた。
「お姉さんは、何て呼べばいいの?」
「私は、スカ―ヴァイス・フィレア。好きな呼び方で良いよっ。それで、このメイドさんはツヴァイテンス・ミシアちゃんで、私はミシアちゃんって呼んでるよ。」
「じゃあ、さっきメイドさんが呼んでたフィって呼ぶね。」
「うんっ。続きは村に向かいながら訊いても良いかな?」
水月ちゃんは喜んで頷いて、私が小さくしゃがみ込んで差し出した右手を、好意的にしっかりと握ってくれた。
「随分と耳が宜しいみたいですね。」
私も、既に不自然な感覚は言わずも伝わってきていた。ミシアちゃんは、私の事をフィなんて呼び方はしないし、アステルさんも私をそうとは呼ばなかった。水月ちゃんは、何時何処で私の愛称を聞き入れたのだろうか...。
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