第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第1章 第一章「乖離的慣性の法則」
「嘘でも良いから、メグ姉じゃなきゃ良かったなぁ。」
「お嬢様、それだけメグお嬢様に愛らしく想われているって事ですよ。」
ここではお姉ちゃんの事を散々言ってるけれど、でも、内心では嬉しかった事は二人には言えなかった。お姉ちゃんも最後のはどうかと思うけれど。
「そ、それより早く説明して下さいよっ。話脱線してますよっ。」
「ふふっ、可愛いぃー。」
楽しそうに私の頭を撫でてくるアステルさんに、無性に腹が立って頬を膨らませると、にやにやしながら頬を突いてきて、只の逆効果だった。
竹林に差し掛かる少し手前、二つの山が高く屹立しているのが見える。左に見えるトロッケン山の山巓部には、残雪が照り付ける琥珀色の光によって眩しい程に輝いていた。
「あの山...高いですね。廻樹くらいあるんじゃないですか?」
「うぅ...、明日登るの大変そう...。」
「お二人なら、飛べば直ぐだと思いますよ。」
アステルさんの言葉に、私たちの頭に飛ぶという選択肢が無かった事に気付き、少し笑ってしまった。アステルさんは、不思議そうに私たちを見てたけど。
「それでは、私はこれで。ここら辺まで来ると、あの娘がいる筈なので。」
「ん...あの娘って?」
「村の娘です。後話すことは...、あっありました。余り気にしなくても良いんですが、あの村の人たちは成長周期が長いので、若い娘しかいませんので気を付けて下さいね。」
「それって、どういう意味で捉えれば良いんですか...。」
「多分、小さい娘が多いから相手するのが大変って事じゃないの?」
「あぁー...そういう事ですか。」
ミシアちゃんは、納得しているようで納得していない様子だった。
「この道なりに沿って進めば村が見えてくる筈です。ではっ。」
そう言い、アステルさんは軽く頭を下げて城の方へと戻って行った。時々、アステルさんは私たちの方を振り返って手を元気良く振ってくるのを、私たちは丁寧に振り返した。
「ふふっ、行きましょうか。」
ミシアちゃんは、アステルさんが豆粒くらいに小さくなった頃に口を開く。私はそれに静かに頷き、ミシアちゃんの手を取り引っ張って歩き出した。その時のミシアちゃんは、凄い楽しそうに笑って、私に付いて来ていた。久しぶりにミシアちゃんが楽しそうに笑っているのを見たかも知れない。