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第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第4章 第四章「第八深淵少女」


 席に着くと、早くも水月ちゃんは身を寄せて来た。私は、自然と視線が首から下ろされた二つの首飾りに眼が入った。どうなるか分からなかったけれど、いつも通りの水月ちゃんで良かった。水月ちゃんもまだ、気持ちの整理は付いてはいないと思う。けれど、この場所で、心優しい人たちに囲まれて過ごしていれば、少しずつでも向き合う事が出来るようになるだろう。残り数日という短い時間だけでも、私がその一人になれたら良いな、なんて。
「フィ、じゃあ食べよっか。」
水月ちゃんは、静かに倒していた身体を起こすと、箸を手に取る。水月ちゃんと眼が合うと、小さく息を吐くように微笑んだ。
「頂きます。」
全員でそう挨拶すると、それぞれの好みの料理から手を付けて食べ始めた。私はその中でも、目の前に置かれた味噌汁を最初に口に運んだ。
「どう、フィ美味しい? 頑張って作ったけど、フィの口に合うかな...。」
水月ちゃんは、自信無さ気にか細い声で言う。
「うん。外が少し冷え込んでたから、身体の芯から温まってきて美味しいよ。程良いみその加減が効いていて、優しい味で私は好きだよ。」
そう言いつつも、しっかりと切れていない長葱や長く繋がったままの若布を見ると、まだ料理が下手だった頃の幼い自身を思い出す。
「それなら、良かった。普段料理のお手伝いはするけど、自分から考えて作った事って無かったから、結構緊張したんだよ。...でも良かった、美味しいって言って貰えて。」
気になって水月ちゃんの方に眼を向けると、水月ちゃんは俯いていて、箸で切り取ったハンバーグを挟んだまま嬉しそうに微笑んでいた。
「ふふ、そのハンバーグも水月ちゃんが作ったの?」
私は、何か間違った事でも言ったのか、水月ちゃんは身体をびくっと震わせて、私の顔を見て固まった。
「...フィ...。」
「っえ、...どうしたの?」
水月ちゃんは、私の名前を呟けば急に呟いたと思うと、表情を崩しにやけたのだ。その状況に少なからず戸惑いが隠せなかった。
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