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第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第4章 第四章「第八深淵少女」


 水月ちゃんが料理を温め直している間に、私は風花ちゃんと居間で座って待っていた。風花ちゃんと談笑していると、次々と料理が運ばれて来る。手伝おうと、料理を受け取りにキッチンに向かっても、水月ちゃんは『大丈夫だよ、フィは座って休んでて。』と、通れないように横に手を広げて、道を固く閉ざした。
 そう言えば、私がフェッセルン山に向かう時に、水月ちゃんをリア姉に預けた筈なのだが、戻って来た時にはリア姉がいなかった。リア姉にしては珍しい。急用でもあって、メレンスに戻ったのだろう。
「はぁ......。」
風花ちゃんと遊んでいて気が付かなかったが、リア姉に後ろから頬を突かれて眼がぴたりと合った。
「見ーつけた。」
そう言ってリア姉は、腕を絡ませては、私の頬を指先で弄り回す。少し嬉しそうにしている所が、何とも憎めない。
「何処に行ってたの?水月ちゃんを預けてた筈なのに。」
「その件に関しては、ごめんな。メグ姉に少し呼ばれててな。でも、水月ちゃんから訊かなかったか?」
リア姉は、無理して笑っているから顔が引き攣っている。余り、ここでは話せない内容なのだろうか。
「...う、うん。色々あってそれどころじゃなかった。私自身、さっきまで頼んだ事も、お姉ちゃんが来てた事も忘れてた。」
私の言葉に、少し固まっていたように見えたが、彷徨う視線がしっかりと一点に定まった。
「え...。ま、まあそうだよな。仕事の時まで考えられたら、それは困る。忘れる程の事があったって事だろ?」
リア姉は平静に話をしているが、手元は落ち着き無く、頬を優しく引っ張ったり離したりしている。
「うん...。その事についてはちゃんと話すけど、後の仕事は私が片付けるから大丈夫。とは言っても、後は調査をメイドさんたちに頼むくらいだけど。」
少しの思想の違いで、ここまで世界の内容が変わっているのだと、これまで沢山の世界をまわってきたが、それを良く実感してきた。ある世界では正しい事が、他の世界では間違いとされている事なんてよくある事で、私たちがこう、世界を変える事も本当は駄目な事なのではないかと、そう思う事が多々ある。正直何が正しいなんて、私たちが勝手に決めた不確かな決まりでしかないのに。
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