第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」
「私、何となくそんな気がしてたんだ。だって、溺死で数日は経ってた筈なのに、目視出来る傷が一つも確認出来ない程、綺麗だったもん...。やっぱり...、そうだったんだね。」
水月ちゃんの頬を、涙が伝う。水月ちゃんの頭の中は今、どうなっているのだろう。どうにかならない内に、渡すべきだろう。
「...水月ちゃん、少し良いかな...?」
私は、ネックレスを二つ取り出し、水月ちゃんに見せる。
「水月ちゃんに預かってたネックレスと、...こっちは、竹華ちゃんから渡すように言われたネックレス...。受け取って...くれるかな? 竹華ちゃんは、何処かで必ず水月ちゃんの事を見守ってくれているから。だから、竹華ちゃんには、笑顔だけを見せていよう?」
錆びれた青い指輪を受け取り、水月ちゃんは声を上げて、ほろほろと涙を流した。私は、水月ちゃんに釣られて視界が滲んでいった。拭っても、視界は歪むばかり。私たちの間に挟まれた風花ちゃんは、この状況が何なのか理解していなかった。
私たちは、少しずつ気持ちの整理がついてきたからか、泣き疲れたからか、次第に鼻を啜る程度で済んできた。
「空木さん、竹華を苦しめたのは決して許せない。だから...、一つだけお願いさせて。」
その言葉に、風花ちゃんを除いた全員が耳を傾けた。この状況で、一番何を言い出すか分からないのが、水月ちゃんだからだ。水月ちゃんは、静かに口を開いた。
「水月ちゃんのお墓を、家の庭に移して貰いたいな。なるべく竹華に近くにいて貰いたいから...。」
「わ、分かりました...。明日には、移せる準備をしておきます。」
空木さんは、要求内容に戸惑いながらも了解した。そういえば、トロッケン山を登っている時に、そんな話を水月ちゃんとしていた気がする。まさか、今言うとは思いもしなかったが。
「空木さん、今更なんですが会議は大丈夫なんですか?」
あの時に、そんな事を話していた気がしたが、今になって思い出した。
「既に、欠席すると伝えました。」
「そうでしたか...。」
空木さんに、抜けた返事で返した。
「...あっ!フィっ、早くご飯食べないと冷めちゃうよ。座って待っててくれるっ?」
水月ちゃんが突然叫ぶものだから、身体がびくんと跳ね上がった。