第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」
外は、もう薄暗い。漏れた陽の明かりで、辛うじて山の輪郭が分かる程度。風で揺れる高草の音。心を落ち着かせる事は無かった。そわそわしていた。最悪の結果を予想していた。水月ちゃんが、壊れてしまう事をを厭う自身。そうなれば、私は水月ちゃんに何をすれば良いのだろうか。そう思うと、何も考えられなくなった。
黒に、黒を塗り重ねたような夜を、照らす篝火が目に留まる。村に着いたみたいだ。もう、突き進むしかない。
「空木さん、着きましたよ。準備は出来てますか?」
ぼんやりと、揺蕩う灯りに照らされた空木さんは、最後の返事をした。
「おーっ、フィレアさん無事だったんですねっ。」
篝火の横に立っていたアステルさんは、闘牛の如く飛び込んで来た。そういえば、アステルさんがここにいる事を完全に忘れていた。
「あれっ、空木さんも来られてたんですか。んっと...、敬礼っ!」
状況が違えば、笑ってあげられただろうが、今は正直、笑えない。
「アステルさん、警備ご苦労様です。もう、戻っても大丈夫ですよ。」
私は、苣さんを信じ、警備、警戒網を解除する事にした。それを知らないアステルさんは、突然の事にぽかんとしている。
「大丈夫...なんですか?」
「はい。元の職務に戻って貰って良いですよ。」
そう言って、アステルさんの背中を少し強めに押した。
「...わ、分かりましたっ。私、戻りますっ。」
「はい。」
アステルさんは、不思議に思いながらも、軽い足取りで暗闇に姿を隠した。
「じゃあ...、行きましょうか。」
私は、再び歩を進めた。今頃、水月ちゃんは料理を準備して、私の帰りを待っているのだろう。頑張って作ってくれている料理が、冷めなければ良いのだが。
灯りが漏れる、家の引き戸に手を掛ける。すると、すうっと戸が開いた。態と開けておいてくれたのだろうか。今の音に気付いたのか、廊下を走って来る音がフェードインして聞こえる。これは、きっと風花ちゃんだろう。水月ちゃんは、料理している筈だから。
「わああぁぁーっ、フィレアさん遅いよー。」
その声は、やはり風花ちゃんだ。私は、片膝を付いて、風花ちゃんを受け止める。