第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」
部屋の戸を静かに開けると、執務席に座る空木さんがいた。私の声か、戸を開く音に気付いたのか、どちらかは分からないが、空木さんと眼が合った。
「あらフィレアさん、こんな時間にどうされたんですか? ...あっ、今回の事で何か成果が得られたんですか?」
私だけ座っているのは失礼とでも思ったのだろうか、立ち上がり私にソファーに座るように促す。しかし、私は横に首を振った。
「何か飲みますか? 何でも言って下さい。」
空木さんは、ソファーの縁に軽く腰を下ろした。
「いえ、大丈夫です。話をしに来ただけですので。」
そう言うと、空木さんはゆっくりと縦に頭を揺らした。
「それで、話とは何ですか? 後、一時間後に会議が控えていまして。」
空木さんは、改まって話す為か口を開き肺を膨らませた。
「それなら、手短に終わらせましょうか。」
私は、竹華ちゃんに預かった指輪のネックレスを取り出し、手から垂らすように空木さんに見せる。
「これが、手掛かりか何かですか? ...ネックレスに通した、青い指輪ですか。少し錆び付いていますね。」
空木さんは、私の手から受け取り、舐めるように観察する。すると、空木さんは漸く気が付いたのか、一瞬固まってみせた。
「...これは、何処にあったんですか...?」
空木さんの頭の中で、色々な事が混在しているのか、酷く動揺しているようだった。
「これは、持ち主、竹華ちゃん本人から預かったものです。話は、既に苣さんから全て聞いています。」
私が、そう怒りを全身に出すと、執務室内は一時の重い静寂に包まれる。
「貴女には、正直失望しました。この事は、竹華ちゃんを愛した緑針さんと水月ちゃんにも、しっかりと説明させて頂きます。水月ちゃんは、貴女に怒らないでしょう。竹華ちゃんは、怒る事ももう出来ません。だから、私に代わりに言わせて下さい。」
空木さんに近付くと、襟を強く捻って握り、そのまま壁に叩き付けた。部屋に、重く鈍い音と本が落ちる音が響く。