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第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」



 あの場所を離れて数十秒しか経っていないだろうが、体感では数十分に感じた。水月ちゃんに、緑針さんにどのように伝えるべきか考えていたからだ。伝えるべきでは無いと、脳が語り掛けてくる事もあった。しかしそれは、二人に怒りや悲しみの積み木を積み上げるだけ。積み上げられていく不安感と、崩れた時の代償は大きい。伝えるならば、早ければ早い方が良い。
 あの見慣れた町が見えてきた。世民は、いつもと変わらずに過ごしている。あの遊園地の観覧車も、何も認識しないガラスのように、只、街を映すだけの大きな鉄の塊。城が見えてきた。この世界を動かす場所は、今日も決められた事を動かしている。私が話せば、この世政府の悪行は世民の耳に届くことになる。そうなったら、暫くこの世界は荒れる事になるだろう。都合良く、全民衆に晒し上げるのだろう。しかし、このくらいの社会的制裁はあの人たちには必要なのかも知れない。
 ヴァール城の入り口付近に降り立つ。庭は、手入れのされた庭木や花が彩る。規則的に敷き詰められた石畳を、響く高い音を立てながら敷地を進む。城の前には、警備に勤める四人のメイド。
「フィレア様、今日はお一人でどうされたんですか?」
透き通った氷のような男勝りな声は、城内に続く道を避けて開けた。
「空木さんに、少し話をしたい事があって。直ぐに終わります。後、敬称は省いて貰っても良いですよ。」
警備服に手を通す背の高いメイドたちは、四人ともなると少しばかり圧迫感を感じる。
「そうですか、分かりました。話は中に伝えておきます。空木さんなら、今の時間帯は自室に在室しております。どうぞ、お通り下さい。」
そう、ガラスのような声で言い、さっと頭を下げた。
「うん、ありがと。」
私は、彼女たちに軽く微笑み中に入って行く。玄関ホールとも言える場所を抜け、重い足取りで足早に弧を描く階段を上がり、二階に上がる。空木さんの部屋は、二階の東棟の中庭近くにある。。周りを見回しても、人は疎らだ。この時間のこの場所は、このぐらいの静かさの方が良いだろう。白と桃の花が規則的に並んだ絨毯は、廊下を縦横無尽に這う。空木さんの部屋まで、一直線に向かう。突き出た室名表示板には、ツェレ執務室と書かれている。
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