第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」
「フィレアさんだったら知っているだろう。ガイノイドは別だが、昔に多くの被験体から作られたクローン、又はその被験体自身が大規模な土壌整備、研究、技術開発に駆り出され亡くなっていった人たちの霊。あれは、その集まり、塊みたいなもんだよ。不本意な死に方をしたあの霊たちは、多くの未練を残したまま行き場無く彷徨っていた。しかし、やがて霊たちは、あちらの寺に集まり一つの集合体、人間に良く似た姿に変わった。」
苣さんは、歩きながら無機質に語る。トロッケン山の寺の住職の話と繋がりがあり、一つの物語が見える。
「それを知ったトロッケン山の住職さんは、トロッケン山に彷徨う存在を封印したって事ですか?」
「あぁ、そうだ。だが、奴らの未練は大きく時折人を取り殺していった。奴らは、孤独感を埋める為に仲間を欲し続けているのだろう。」
苣さんは、大きく溜め息を吐く。私は、漸く納得のいく答えを得た。でも、もう一つ訊きたい事があった。
「もう一つだけ聞きたい事があるんですけど、この娘、竹華ちゃんはその一人に当たるんですか? この下にある村の長の緑針さんは、事故死と聞かされてますけど。」
すると、苣さんは口を閉ざし黙り込んだ。葉同士が擦れる音と土を踏む音が鮮明に聞こえる程に。
「どうしたんですか?」
それでも、苣さんの接着された口は開かない。
「...それは、話すことが出来ない。」
「どういう事ですか?」
苣さんの言葉。少し考えれば直ぐに理由が分かった。それと同時に心の蓋が少し開いた気がした。
「誰かに、話さない様に言われてるんですか? 例えば、城のひ...。っ!空木さんに止められてるんですかっ?」
苣さんは頭を大きく横に振った。しかし、苣さんの身体が一瞬止まったのを、私は見逃さなかった。
「その程度の嘘、調べれば直ぐにばれますよ。私に話さなくても良いですけど、私のお姉ちゃんたちに代わりに訊かれる事になりますよ。どちらが良いか、考える事ですね。」
私たちの会話に無関心の竹華ちゃんも、私の声に驚いたのか身体を揺らした。
「あっ、ごめんね。びっくりしちゃったかな?」
私は、溢れ出る怒りを抑え込み、肩に顔を乗せる竹華ちゃんに、不器用な微笑みで訊く。竹華ちゃんは、少し頭を下ろし頷いた。気を使ってくれたのか、私の頭を数回撫でていた。