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第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」


 村から大分離れた中腹辺りまで来たが、相変わらずと言って良い程声は聞こえる。しかし、姿が視認出来ないものだから、極度な状態での幻聴というだけとも考えられる。だから、取り敢えず下に降りて寺まで歩いて向かおう。危険だという事は重々承知だが、そうすれば八尺様も姿を見せるだろう。二メートル四十...。身長差で圧倒されそう...。いや、それ以外は多分大丈夫...だと思いたい。
 隙間を見つけ、生い茂る葉の間を潜り抜けるように降りた。山の中腹まで来ると、竹は一本たりとも生えておらず、太い木々が天井から差し込む光を完全に遮っている。その所為で、辺りは夜明け前のような暗さ。でも、このくらいなら暗視ゴーグルを付ける必要は無いだろう。辺りを見回しても道らしき道は無く、本格的な登山と言った感じ。傾斜が緩いだけ、まだ良しとしよう。水月ちゃんは、この道知っておきながら付いて来ようとしていたのだと思うと、気が知れない。若しあの時了解していたら、私は只の鬼だったろう。
『ぽ......ぽ...ぽ...ぽぽぽ...ぽぽ...ぽ...。』
寺に向かって歩き出したものの、ここまでくると、流石に耳に障る。八尺様は、着々と私に近付いて来ている。姿を現すのも時間の問題だろう。先程は、水月ちゃんと一緒だったから多少気が張っていたが、護る人がいない方が気は楽だが、いる時のぴり付いた空気感が自身を刺激するのだろう。その人を失う可能性を背負いながら。水月ちゃんという一人の女の子を護れただけでも、少しくらいは成長出来ただろうか。
”ざさっ”
私は、考えている全てのものを思考停止し、反射的に足を止め、音のした方に眼を張った。”それ”は、八尺様の声がする後ろから聞こえたものでは無い。私は、恐怖というより、自然と口元が緩み、笑みが零れた。
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