第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」
「フィ、村見えてきたよっ。」
水月ちゃんのその声の通り、村が段々と近付いてくる。最早、考えている猶予は無いのだろう。一気に速度を上げ、少しでもと思い八尺様との距離を取る。あの声を聞いていると、頭がどうにかなりそうだから一石二鳥だろう。村の入り口眼を向けて凝らして見ると、既に警備としてアステルさんと、それとあれは......リア...姉?
「よっ、久しぶりだな。元気にしてたか?」
確かにそれはリア姉だが...、今は久方ぶりに逢えた事を喜んでいる時間は無い。私は、直ぐに水月ちゃんの脇を抱えて、リア姉に引き渡す。今日来るとは言っていたが、好機にも程がある。リア姉なら安心して大丈夫だろう。
「えっ何、もう行くのか?もう少しゆっくりしていっても」
「今、現在進行形で追われてるの。...若し、私じゃなかった時は、任せたからね。じゃあ水月ちゃん、また後でね。」
私は、しゃがみ込んで水月ちゃんの頭にぽんと手を添える。
「うん。」
水月ちゃんは、眼を瞑り微笑んでいる。
「良く分かんないけど、この娘を護れば良いんだろ。そのくらいの事なら任せなっ。」
リア姉は、軽く笑うと私の背中を押した。
「じゃあね。」
「あっ、待ってフィっ! フィが簪を私に預けたように、フィは私のこの青い指輪を預かっててくれるかな?」
水月ちゃんは、自身の首に下げていた指輪のネックレスを外して、私の首元に付ける。
「えぇ、分かった。大事に預かっておくね。」
「うんっ、ありがと。」
水月ちゃんは、そう言って小さく手を振る。私は、軽く微笑み、それを背に向け迫り来る八尺様の声から距離を取るように、急いでフェッセルン山の頂上の寺へと向かう。トロッケン山の寺の住職の話の通りなら、詳しい話を知っている筈。八尺様の様子を見ながら、向かうとしよう。