第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」
「絶対......帰って来てね...?頑張って...美味しい夕食、作って待ってるから。」
「うん。」
水月ちゃんの表情に、笑顔が戻ってきたのを感じた。でも、水月ちゃんの心も同じく笑っているとは限らない事を、心に銘記しなければならない。白の軽く湿らせたタオルを取り出して、水月ちゃんの頬を伝った空気中に蒸発し乾いた涙を、ゆっくりと拭き取る。もうこれで何回目だろうか。でも、水月ちゃんに限らず、泣く事は他人に自身の感情を伝える容易な手段であり、自身の心の器から漏れたものが、涙として出てくるのだろう。
「...じゃあ、行こうか。水月ちゃんはこのまま掴まってた方が良い?」
「うん。今はその方が良いかな。」
私は、水月ちゃんに微笑んで応じ、背中に優しく手を添える。私は、水月ちゃんに気を遣いながらも急ぎ足で、足早にその場を去った。
村に戻る途中、水月ちゃんは元気を取り戻したのか、私の結われた髪の束を手で触りに触っていた。
「フィ...、良く私があそこにいるって分かったね。私、余り話して無い筈なのに。」
「数日前に話してくれた事を忘れる筈が無いでしょう?...それに、水月ちゃんを探すこと事で一杯だったから、都合良く出てきたのかな。」
「ふふっ...、何それー...。」
耳元で囁くその声は耳奥まで響いて来て、安心からか自然と息を吐いた。
どうしてだろう。胸を締め付けている感じがして、息苦しい。私を覆い包むような不安感に、非常に違和のある寒気が突き抜ける感じ。その所為か、水月ちゃんの体温が衣服をすり抜け少しの身震いをさせた。
「フィ、震えてるけど大丈夫?少し寒いのかな...。へへぇ、私が温めるよっ。」
水月ちゃんは、目一杯に抱擁してくれて、さらに、頭の後ろを何度も撫でられる。しかし、違和感が消えることは無く、酷くなっているように感じる。
「水月ちゃん、ありがと。少しは落ち着いたよ。」
「うんっ...、それなら良かった。」
決して嘘なんかでは無く、水月ちゃんのお陰で冷静さを取り戻した気がした。