第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」
篝火の所でまで来たが、水月ちゃんの姿は無い。取り敢えずここまで来たものは良いものの、ここから先の水月ちゃんの向かう当てが分からない。とは言うもの、水月ちゃんは気分が落ち着くまで一人になれる場所にいる筈。しかし、今の状況であればそれはかなり危ない。早く探し出さなければ、既に手遅れになる可能性だってある。...そういえばあの時、この村に初めて来た時に、水月ちゃんがいた場所。あの場所で一人、遊んでいるって言っていた。先程山を下りる時に言っていた、トロッケン山の寺の中にある霊園に置かれた竹華ちゃんのお墓も考えられるが、村に三か所ある出入口の中から水月ちゃんが出て行ったと思われる此処の出入口からは近道とは言えない。さらに、距離を考えればお腹が空いている水月ちゃんには、疲れて辿り着けないだろう。そうと分かれば直ぐにあの時に会った場所に走る。笹は一寸たりとも動かない。私の顔や脚を触る風は、異様に冷たくて嫌な感じがした。水月ちゃんでも、流石に諦めてくれると思っていた。お姉さんである緑針さんにも言ってもらえば素直に応じると思っていたのに、水月ちゃんは首を振って諦めなかった。水月ちゃんは、私の想定を紙屑のように吹き飛ばして上回った。もう正直、水月ちゃんの事が分かっているのか、分かっていないのかさえ分からなくなってくる。
着いた。汚れた白い雲に覆われてた空の所為で、竹林は一段と薄暗く感じる。水月ちゃんはこの辺りにいるのだろうが、長い時を経て人為的に踏み固められた城に続く道から離れた離れた場所にいるのは明らか。あの時に水月ちゃんがいた左側の竹が無造作に生えた道を掻き分けて進む。この道だけ、ほんの極僅かな違いではあるが、土の上に降り枯れた笹の葉が他の場所より少ない。よく見れば笹の付いていない枝が、この道には多く見られる。道は次第に太く広がり、やがて一つの広い空間に出た。。竹が一本も生えていない、人の性を擽るような幻想的な空間。それでいて、優しく包み込んでくれるような心地の良い暖かさ。水月ちゃんの言った通り、兎たちだけでは無く、鳥たちものうのうと自分らしく楽しんでいるようだ。